全 情 報

ID番号 01531
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 塚本商事事件
争点
事案概要  従業員との喧嘩により傷害を加え略式命令により五、〇〇〇円の罰金を科せられたことを理由として懲戒解雇された者の地位保全仮処分事件。(申請認容)
参照法条 労働基準法89条1項3号,90条
民法1条3項
体系項目 就業規則(民事) / 意見聴取
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
裁判年月日 1952年11月13日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 昭和27年 (ヨ) 328 
裁判結果
出典 労働民例集3巻6号542頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔就業規則―意見聴取〕
 元来就業規則はその性質上会社が一方的に決定し得るものであり、単に労働基準法第九〇条は労働条件についてはできるだけ労使対等の原則を貫こうと云う労働法の立場より訓示的に規定せられているにすぎないのであって意見を聴取しなくても就業規則制定の効力には少しも影響はないのであるから、たとえ会社が第一組合の意見を聴かなかったとしてもそれのみを以って右懲戒委員会規則を無効と断ずることはできない。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―暴力・暴行・暴言〕
 懲戒解雇処分は労働者にとっては、その死命を制する極めて重大なものであるから、会社はその解雇権を行使するに当っては慎重に諸事情を考慮して必要な最少限度の範囲内でしかも信義則にのっとってこれをなさなければならないことはもちろんであって、単に暴行事件が起り略式命令により罰金を科せられた一事を以って直に右処分に及ぶことは許されないところ、前認定のごとく申請人の惹き起した右暴行事件はその悪性に因るものではなく、特殊な原因から生じた特殊な事件であって就業規則第七〇条第三号を適用しなければ今後職場の秩序維持に支障を来す恐れありとは到底断じられない。更に、それが会社に対し直接効力を生ずるものでないにしても工場長が第一組合に与えた前記確約に第一組合が全幅の信頼を置き争議妥結に応じたにかゝわらず、日ならずして会社は右事情を知りながら不信にも右確約を全く無視して、さまで必要でない右懲戒解雇処分に及んだものであって、それは、明かに解雇権行使の正当な範囲を逸脱し解雇権の濫用と云わなければならない。したがって、右処分の無効であること明かである。