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ID番号 01586
事件名 懲戒戒告処分無効確認請求事件
いわゆる事件名 目黒電報電話局事件
争点
事案概要  「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と書いたプレートの着用と局所内で無許可でしたビラ配布とを理由に戒告処分に付された電々公社職員が、いずれの行為も就業規則所定の懲戒事由には該当せず右処分は無効であるとして、その確認を求めた事件。(認容)。
参照法条 労働基準法89条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 政治活動
裁判年月日 1970年4月13日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和42年 (ワ) 8229 
裁判結果 (控訴)
出典 労働民例集21巻2号574頁/タイムズ248号201頁/訟務月報16巻6号545頁
審級関係 上告審/01319/最高三小/昭52.12.13/昭和47年(オ)777号
評釈論文
判決理由  公社職員の政治活動についていえば、法律上公社職員の政治活動の自由を制限する明文の規定は存在しないばかりでなく、その職務の性質上、公社職員が、局所の内外を通じ国家公務員に対して要請される程度を超えて、より広範に政治的中立性の確保を要請されなければならない根拠を見出すことは困難である。そうだとすると、上記被告公社設立の沿革、就業規則制定の経緯および右規則制定者の見解を総合して考えると、就業規則第五条七項の「政治活動」の意義は、人事院規則一四-七に規定する政治的目的をもつ政治的行為と同趣旨であると解するのが相当である。
 そこで、人事院規則一四-七の政治的行為および政治的目的の定義規定のうち、本件プレート着用との関係で問題となるべき条項についてみるに、政治的行為については、その第六項第一六号(「政治的をもつて、勤務時間中において、政治上の主義主張又は政党その他の政治団体の表示に用いられる旗、腕章、記章、えり章、服飾その他これに類するものを着用し又は表示すること。」)が、政治的目的については、第五項第五号(「政治の方向に影響を与える意図で特定の政策を主張し又はこれに反対すること。)がそれぞれ関連をもつ規定であって、(中 略)。
 右の「政治の方向に影響を与える意図」については、単に特定の政党の政策を支持しまたはこれに反対する目的を有するだけでは足りず、より一層重大な政治の基本的方向すなわち憲法で定められた民主主義政治の根本原則を変更し、または変更のおそれのある行為をする積極的意思と解すべきであって、行為者に右の意味での政治的目的が意識されていない限り、前記人事院規則第六項第一六号の制限の対象となる政治的行為に該当する余地がないことについては異論をみないところである。
 (中 略)
 右認定の事実によると、本件プレートが政治上の主張の表示に用いられる記章に該当するとしても、原告が上記の意味での政治的目的をもつて本件プレートを着用したものとは到底認め難いところであるから、原告の本件プレート着用行為、前記就業規則第五条第七項の規定に牴触するものではないと認めるのを相当とする。
 右認定の事実によると、原告は、上司の理由のないプレート取りはずし命令に抗議する目的で、休憩時間を利用して、大部分は休憩室、食堂で平穏裡に本件ビラを配布したものであり、ビラの記載は虚偽の事実とか個人的誹謗など特段に不当な内容を含むものではなく、その枚数も僅か数十枚に過ぎないのであるから、本件ビラ配布は、なんら職場秩序の実質的侵害を伴わないものであつて、未だ就業規則第五九条第一八号所定の徴戒事由に該当しないといわなければならない。
 (中 略)
 そうだとすると、本件懲戒戒告処分は、就業規則所定の懲戒事由が存在しないのにかかわらず行われたものであって、爾余の点について判断を進めるまでもなく無効といわなければならない。