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ID番号 01588
事件名 雇用関係存続確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 国鉄広島地本事件
争点
事案概要  日教組による反対運動に合流した際公務執行妨害罪で起訴、有罪とされたことを理由に懲戒免職処分に付された国鉄職員が、右処分は懲戒権の濫用にあたり無効であるとして雇用関係の存在確認を求めた事件の控訴審。(控訴棄却、労働者勝訴)
参照法条 日本国有鉄道法31条1項
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務外非行
裁判年月日 1970年9月29日
裁判所名 広島高
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (ネ) 22 
裁判結果 (上告)
出典 時報610号91頁/タイムズ254号178頁
審級関係 上告審/01787/最高一小/昭49. 2.28/昭和45年(オ)1196号
評釈論文
判決理由  〔懲戒・懲戒解雇―懲戒権の限界〕
 前記就業規則第六六条は国鉄職員に対する懲戒事由として一七の事由を挙げており、その(1)ないし(15)の事由は国鉄職員の職務に関連した事由を規定していることが認められるが、その(16)号には「職員としての品位を傷つけ又は信用を失うべき非行のあったとき」との規定があり、同号の事由は国鉄職員の業務外の行為を含む趣旨であることが文言上からもうかがわれるところであり、同号に続いて懲戒事由を概括的に規定した同(17)号の「その他著しく不都合な行いのあったとき」というのも、業務上の非行に限定する趣旨のものと解すべきではない。
 (中 略)
 本件懲戒処分の対象となった控訴人の所為は前記認定のように犯罪捜査に関する職務を執行中の警察官に暴行を加えた公務執行妨害行為であり、右所為はもとより現行法秩序のもとにおいて許容されるものではなく、とくに被控訴人が公法人であって、国が国有鉄道事業特別会計をもって経営している鉄道事業その他一切の事業を経営し、能率的な運営により、これを発展せしめ、公共の福祉を増進することを目的として設立されたものであって(国鉄法第一、二条)高度の公共性を有することを考慮すると本件におけるようにその職員が国家機関の職務を暴力により妨害する如き犯罪行為を行った場合、これを放置するときは被控訴人の経営する事業内における秩序ないし労務の統制を乱すおそれが客観的に認められるものといわなければならないから、控訴人が本件所為をなして前記刑に処せられた事実は前記就業規則第六六条第(17)号、国鉄法第三一条第一項第一号の懲戒事由に当るものと解するのが相当である。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―職務外非行〕
 国鉄職員に懲戒処分に付すべき所為があった場合においても右免職処分の選択は、被控訴人総裁の自由な裁量に委ねられるものではなく、事件の原因、態様、結果、事件前後における被懲戒者の態度、他の職員に対する影響等諸般の情状を検討し、特にその情状が悪く懲戒免職処分に付するのが客観的に妥当かつ必要と認められる程のものである場合にのみ右処分に付しうるものと解するのが相当である。
 そこで、本件について検討すると、
 (中 略)
 本件所為の罪質は、もとより軽視しえないものではあるが、その犯情は特に悪質なものとは認められない。前記説示のように職員の職場外の所為にもとづき懲戒、ことに免職処分に付する場合は、それが事業内の秩序等に対して及ぼす影響が直接的でないだけに特に慎重な考慮が必要であって、本件所為および刑事処分を受けたこと自体はその犯情からみると、被控訴人の企業内および対外的影響を考慮に入れても、控訴人を企業外に放逐する本件処分に付さなければならない程悪質な事由とは到底解しえないのである。
 (中 略)
 以上に説示した点を考慮すると本件は懲戒権の裁量の範囲を逸脱した無効な処分といわなければならない。