ID番号 | : | 01618 |
事件名 | : | 損害賠償請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 池袋労基署長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 皆勤手当に関する就業規則の規定の不利益変更、深夜手当の不払い等の事実についての申告があったのにもかかわらず使用者に対する監督権を発動しなかった労働基準監督官の不作為を使用者の不法行為を幇助するものとして、国に対して損害賠償が求められた事例。(一審 請求棄却、二審 控訴棄却、請求棄却) |
参照法条 | : | 労働基準法100条5項,104条1項 |
体系項目 | : | 監督機関(民事) / 監督機関に対する申告と監督義務 |
裁判年月日 | : | 1978年7月18日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和53年 (ネ) 739 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 時報900号68頁/東高民時報29巻7号147頁/タイムズ372号123頁 |
審級関係 | : | 一審/01617/東京地/昭53. 3.15/昭和49年(ワ)4631号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 二 ところで控訴人は、前記申告を受けながらA監督官は適切な措置をとらず、訴外会社が労働基準法違反の事実により控訴人の権利を侵害するという不法行為を幇助した、と主張する。 しかし、もともとA監督官の右不作為が国家賠償法一条一項の職務行為、民法七一九条二項の幇助行為に当るというには、同監督官が控訴人の申告に対応して何らかの行為を為すべき義務(いわゆる作為義務)を負い、同監督官がこの義務に違反して行為をなさなかったことを必要とするものであるが、労働基準法一〇四条一項の申告は、労働者の労働基準監督官に対する、事業場に労働基準法違反の事実が存する旨の通告であり、この申告は、監督官の使用者に対する監督権発動の一契機をなすものであっても、監督官に申告に対応する調査などの措置をとるべき職務上の作為義務まで負わせるものではなく、もし申告を受けた監督官の処置、態度に不満な労働者は、その上級監督官庁に申告してその職権の発動を促すことができるにとどまるものである(労働基準法一〇〇条五項参照)。 尤も公務員が法律の明文上、作為義務を負わなくても、一定の作為をなさなければ国民に重大な危険が生ずる可能性があるというような差し迫った事情下においては、条理上、当該公務員に一定の作為義務を肯定することもありうるが、《証拠略》によると、控訴人は労働法規などに可成り通じており、昭和四八年三月八日、A監督官に対し、訴外会社は平均賃金以下の有給休暇手当を支払っているなどの事実を申告し、同監督官の数次にわたる調査、勧告により、訴外会社より右手当の追加支給を受け、同年八月二三日にも控訴人はA監督官に対し、訴外会社の控訴人に対する割増賃金の算定、深夜手当、住宅手当、家族手当の支給は誤っている旨を申告し、この件についてもA監督官の調査、勧告により訴外会社から追加支給を受けてその目的を果しており、控訴人のなした同年一〇月一五日の本件申告はA監督官に対する第三回目のものであることが認められ、この事実及び本件において控訴人が主張する損害の性質、内容を総合すると、昭和四八年一〇月一五日本件申告が前記のような差し迫った事情下においてなされたものとはいうことはできないから、A監督官に条理上の作為義務ありとすることは妥当ではない。 三 そうするとA監督官の不作為は国家賠償法一条一項の職務行為にも、民法七一九条二項の幇助行為にも当らないというよりほかないから、控訴人の本訴請求は他の点について検討するまでもなく失当であり、同様理由により本訴請求を棄却した原判決は正当である。 |