ID番号 | : | 01622 |
事件名 | : | 証拠保全決定に対する即時抗告申立事件 |
いわゆる事件名 | : | ダイハツ工業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 使用者が昇給・昇格につき差別取扱いをしているとして、その格差の存在、程度を立証するため賃金台帳の提出を求めた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法108条,109条 民事訴訟法(平成8年改正前)312条3号 |
体系項目 | : | 雑則(民事) / 賃金台帳 |
裁判年月日 | : | 1979年9月5日 |
裁判所名 | : | 大阪高 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和54年 (ラ) 314 |
裁判結果 | : | 一部取消 却下 |
出典 | : | 労働民例集30巻5号908頁/時報949号68頁/労経速報1027号3頁 |
審級関係 | : | 一審/01621/大阪地/昭54. 5.31/昭和53年(モ)14357号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | (1)民訴法三一二条後段にいう「法律関係」とは、もともと契約関係を前提として規定されたと解されるから、そこにいう法律関係につき作成された文書というのも、当該法律関係そのものを記載したものに限られないとしても、その成立過程で当事者間に作成された申込書や承諾書等当該法律関係に相当密接な関係を有する事項を記載したもののみをいうと解するのが相当である。 現行民訴法下においては、当事者が自己の手元にある証拠を提出するか否かは、原則として、当該当事者の自由であり、文書についても、これを法廷に提出して当該文書を相手方ひいては一般公衆の了知するところとさせるか否かの処分権は、一般的には、右文書の所持者に専属するところ、民訴法三一二条は、右原則に対する例外として、挙証者と文書所持者とが、その文書について同条所定の特別な関係を有するときにのみ、挙証者の利益のため、当該文書の所持者の右処分権に制ちゅうを加えようとするものと解すべきである。しかるとき、民訴法三一二条三号後段にいう「法律関係をもって、当事者間のあらゆる法律的関係に関して何等かの意味で関係のあるもの一般を指称するものと解すると、挙証者が、文書の所持者を相手方として訴訟を提起している場合には、当該訴訟で挙証者が文書所持者に対して主張している権利が認められるか否かという法律関係が両者間に必ず存在することになるから、当該文書に挙証者に利害関係のあることが記載されていれば、それだけで、挙証者は常にその提出を求め得ることになり、およそ現行民訴法が予定しているところと異なる結果を生ぜしめることになる。 よって民訴法三一二条三号後段所定の文書についても、前叙の如く、これを限定的に解するをもって相当とする。 (2)本件賃金台帳の記載事項等は前叙認定のとおりであるところ、右設定にかかる、右賃金台帳の記載事項からするならば、右賃金台帳は、抗告人と相手方との法律関係そのものを記載した文書にも、その成立過程で当事者によって作成された当該法律関係に相当密接な関係を有する事項が記載された文書にも、該当しないというべきである。 なお、本件賃金台帳が民訴法三一二条三号前段の文書に該当するか否かについて付言する。 (1)民訴法三一二条三号前段にいう、挙証者の利益のために作成された文書とは、身分証明書や遺言書のように、当該文書により挙証者の地位、権利および権限を直接証明し又は基礎づけるために作成されたものをいうと解するのが相当である。 (2)賃金台帳作成の目的、その記載事項等は前叙認定のとおりであるところ、右作成の目的、および使用者が労働基準法一〇八条、一〇九条によりその作成、保存を義務づけられ、労働基準監督官が同法一〇一条によりその提出を求めることができるとされているのも、国の監督機関がその監督権を行使するためのものであって、労働者にその地位等を右賃金台帳によって証明させること等を目的とするものでない点を合せ考えると、右賃金台帳は、民訴法三一二条三号前段の文書に該当しないと解するのが相当である。 |