ID番号 | : | 01704 |
事件名 | : | 従業員身分保全仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 京阪神急行電鉄事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 私鉄の従業員が共謀して廃札を発売、または改札係として廃札に空パンチを入れて正しい切符といれかえるいわゆる「たらい廻し」をしたとして懲戒解雇された事案で地位保全の仮処分を申請した事例。(申請却下) |
参照法条 | : | 民法536条2項,624条 労働基準法26条 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 無効な解雇と賃金請求権 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為 |
裁判年月日 | : | 1962年4月20日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和34年 (ヨ) 341 |
裁判結果 | : | 却下 |
出典 | : | 労働民例集13巻2号487頁/時報301号32頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金―賃金請求権の発生―無効な解雇と賃金請求権〕 就業制限とは、懲戒に該当する疑のある行為をなした従業員に対し、懲戒につき決定がなされるまでの期間事情調査の為の証拠湮滅懲戒該当行為の再発並びに事故の発生を防止する目的で使用者の命じる出勤停止で、懲戒未確定期間中の暫定処置であって本来の性質は懲戒そのものではないことが窺われる。 いま、この就業制限の適否について按ずるに、会社が就業規則、労働協約、またはこれに基く覚書において、従業員の就労を拒否しうる場合を定めることは、従業員の就労請求権を認めるか否かにかかわらず、何ら強行規定に違反するものではないが、右就業制限に伴い賃金の支給を零パーセントとすることができるという一般的な規定を設けることは、労働基準法の賃金支払保障の強行規定に反し無効であるというべきである(従来零パーセントの取扱が慣行的になされてきたからといって有効になるわけでない。)。けだし、使用者が労働者の就労を拒否し、なお賃金債務を免れうる場合は、その就労拒否が使用者の責に帰すべからざる事由に基くときに限定されるのは、民法第五三六条第二項、労働基準法第二六条に照して明白というべく、また右使用者の責に帰すべからざる事由の存否は個々の具体的事情に応じて判定せらるべきものであり、ある従業員に懲戒事由に該当する行為があったとの疑いを生じ、懲戒手続開始の運びに至ったからといって、会社が就業制限の理由として挙げるような事故発生、不正行為再発、証拠湮滅等のおそれまたは危険性が常に具体的に生じるものとは考えられず、またこれらのおそれまたは危険性は別途にこれを除去する方策もあるのであるから就業制限を以て使用者のやむをえない処置であり、その責に帰すべからざるものとして賃金債務を免れるものとすることはできないからである。 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―職務上の不正行為〕 五、被申請人会社がその主張の如き運輸交通事業を営むことは申請人等の明かに争わない事実であるところ、かかる企業に於ては零細な乗客運賃収入が経営の基礎であり之を従業員が業務上不正に領得する行為は経営の基礎をゆるがせるものであって、従業員は監督者同僚の眼を離れ孤立して勤務する事も多く又現金を取扱う為高度の信頼関係が要求されるところ、前述の申請人等の不正行為の範囲態様手段他の従業員に与えた影響等を考えると、被申請人において申請人等を会社企業内部にとどめることはその存立上からも、経営秩序維持の為からも、はたまた他戒の目的からも許し難いものとして、懲戒解雇処分に付したことを以て、あながち過酷な不当な処分とはいい難く、また本件に現われたすべての疎明資料によっても、申請人等主張の如く、申請人等のみを特に重く処分したという偏頗な事情も窺えないのであるから、本件懲戒解雇を以て、労働協約、就業規則の適用を誤ったものとはいい難く、これを無効とする申請人等の主張は採用し難い。 |