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ID番号 01705
事件名 労働事件仮処分申請事件
いわゆる事件名 ヤマト交通事件
争点
事案概要  タクシー運転手が空車を運転して私用である他社の争議応援大会に行ったこと等を理由として懲戒解雇された事案で地位保全等の仮処分を申請した事例。(申請一部認容)
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 始末書不提出
裁判年月日 1962年4月19日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和35年 (ヨ) 1496 
裁判結果 一部認容 一部棄却
出典 労働民例集13巻2号469頁/時報306号35頁
審級関係
評釈論文 有泉亨・ジュリスト294号89頁
判決理由  〔懲戒・懲戒解雇―懲戒権の限界〕
 ところで就業規則第六五条によれば、懲戒の種類としては懲戒解雇のほかにこれより軽い譴責、減給、出勤停止の各処分が定められているところ、普通解雇と雖も従業員を終局的に企業から排除するものである以上、就業規則所定の普通解雇事由の解釈に当っても右懲戒の段階性を無視することはできず、さすれば、就業規則第三八条第四号にいう「会社の経営方針に背反する行為をしたるとき、又は誠実義務に違反すると認めたとき」、第七号にいう「直接又は間接に、社業をみだし、又はそのおそれのあるもので、従業員としてその適格を欠くと認めたとき」という文言は極めて抽象的で漠然としているとはいえ、いずれも、企業経営秩序の維持上社会観念に照し従業員を企業から排除するのを相当と認める程度にその行為の情状の重い場合をいうものと解しなければならない(換言すれば、譴責、減給、出勤停止にあたる程度の事由では足りない)。してみると、申請人には営業のため以外に乗務車輌を使用したというただ一回の不当行為があり、かつ、右行為につき反省しないとは必ずしも断定できないような事情のある本件においては、申請人の右所為をもって企業から申請人を排除しなければならない程の情状の重いものであるとは解しがたいから、結局申請人には就業規則第三八条第四号第七号所定の普通解雇事由は存しないものといわねばならない。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―始末書不提出〕
 始末書の提出を求めうる根拠は就業規則上どこにも見当らないから会社の申請人に対する始末書提出要求には拘束性がなく、したがって始末書不提出自体はこれを不当視しえないものであることを考え合すと申請人が自己の行為を不当でないと主張し始末書の提出を拒否したことを以て直ちに反省を欠いたものと断ずるのは早計であるといわねばならない。