ID番号 | : | 01711 |
事件名 | : | 地位保全仮処分申請控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 日本鋼管事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 砂川基地反対闘争において刑事特別法二条違反として逮捕・起訴された者に対して、就業規則上の「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」に当るとして懲戒解雇がなされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務外非行 |
裁判年月日 | : | 1964年3月27日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和35年 (ネ) 1788 昭和35年 (ネ) 1894 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働民例集15巻2号174頁/時報367号19頁/東高民時報15巻3号57頁/タイムズ160号84頁 |
審級関係 | : | 一審/04563/東京地/昭35. 7.29/昭和33年(ヨ)4022号 |
評釈論文 | : | 吾妻光俊・労働法令通信18巻1号6頁 |
判決理由 | : | 思うに企業者がその従業員たる労働者に対して有する所謂懲戒権は、国家の国民に対する刑罰権とは異なつて、企業者が当然に有するものではなく、就業規則もしくは労働協約に基いて即ち企業者と従業員たる労働者側との間の明示もしくは黙示の合意に基いて初めて発生するものである。この点に鑑みるときは、懲戒権の基礎となる事実の解釈について争のある場合には、第一に当該就業規則もしくは労働協約の規定が標準となることは勿論であるが、その解釈については規定の形式乃至文字のみに捕われることなく、その目的、精神に則って客観的合理的に解釈すべきことは多言を要しない。 第一審被申請人と申請人等所属の組合との間に締結されている前示労働協約第三八条第一一号(第一審被申請人の就業規則第九七条第一一号には、その規定の体裁文言に於いて全く協約第三八条第一一号と同一で、協約の規定を確認したものに過ぎないから、以下、協約についての説明は同時に規則についても言及したものとする)には、懲戒解雇又は諭旨解雇の原因として「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」と規定する。文字的には「不名誉な行為」とは反道徳的、反社会的、反法律的等の一切の行為を含み極めて幅の広いものと解される。然し、企業者の懲戒権は組織体としての企業の秩序を維持し乃至企業の生産性の向上を計るため、之に背反した者に所謂契約罰として不利益を与え、その甚しい場合はこれを懲戒解雇即ち企業の埓外に排除することを目的とするために認められたものであること、企業者とその労働者との間に於ても信義則の支配はあるにせよ、労働者はその労働力を企業者に提供するにとどまり、企業者とその労働者とは法律的には独立別個の人格であって、労働者はその全生活を企業者の支配乃至監督の下に置くものでないこと、前示協約第三八条第一一号に先行する第一号乃至第一〇号の中にも「不名誉な行為」と目さるべき行為の規定(例えば第五号、第九号等)のあること等に鑑みるときは、協約第三八条第一一号に「不名誉な行為をして会社の体面を汚したとき」とは、道徳的、社会的、法律的に見て不名誉な一切の行為を含むのではなく、不名誉な行為(但しそれが職場内で行われたと職場外で行われたとを問わない)の中、客観的に見て企業の秩序乃至規律の維持又は企業の向上と相容れない程度のもので、これによって現実に会社の体面即ち企業者としての社会的地位、信用、名誉等が著しく毀損され企業者に取って最早当該労働者との間の雇用関係の継続を期待し得ない場合を意味するものと解するを相当とする。 |