ID番号 | : | 01721 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 西日本精工事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 生産性向上運動カードに落書きしたことを理由とする懲戒解雇並びにこの処分が不当労働行為として地労委で争われた際に組合の決定に反した行動をとったとしてなされた組合除名処分に基づきユニオンショップ協定によりなされた解雇が無効であるとして地位保全の仮処分が申請された事例。(一部認容) |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続 |
裁判年月日 | : | 1966年5月30日 |
裁判所名 | : | 大津地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和39年 (ヨ) 23 昭和39年 (ヨ) 24 |
裁判結果 | : | |
出典 | : | 労働民例集17巻3号655頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―業務命令拒否・違反〕 そして右提案はその性質上強制していたものではないが、会社が業務の円滑な運営を図るため一般従業員にこれを命じていたものであって通常の業務に附随してかかる指示をすることも当然許されるというべきであるから、使用者が雇傭契約に基づき労働者に課する通常の職務上の指示命令とはいささかその性質を異にする点はあるけれども、右の職務上の指示命令に準ずるものとして従業員はこれに従う義務があると解すべきである。よって提案制度の趣旨からみて、従業員が提案事項がないためこれに参加せず、あるいは提案したが価値がないものである場合はやむを得ないとしても、少なくとも右提案に応ずる場合には、真摯な態度で臨むべきであって不真面目な態度でこれに応ずることないしはことさら提案制度や会社の企図する安全ないし生産性向上妨害あるいは阻止することは、職務上の指示に従わなかったというべきである。 (中 略) これらの点からみると、同申請人の本件カードないしその下書とみられる提案カードの作成及び職場の同僚一〇数名にこれを示した所為は会社の生産性向上運動を積極的に阻止妨害せんとの意図に出たわけでなく、悪戯意識の余りに為したものと推認されるのみならず、証人A(第一回)、同Bの各証言によれば右カードを示された同僚のうちある者はこれをみて不快の念を懐したことは一応認められるけれども同人申請人の右行為により同僚が生産意欲を殺がれたりあるいは提案制度に参加しようとする意欲が衰えたり、その他会社業務の遂行に支障を生じたことないし職場における秩序が乱されたというごとき実害の生じたことについての疎明はない。然らば同申請人の右所為が、真摯な態度で前記提案制度に参画しようとする者に心理的に幾許かの動揺を与えたとしても、成立に争いのない疎乙第二号証に徴し会社の就業規則に定められた懲戒処分中譴責、減給または出勤停止のいずれかに該当すると見るは格別之をもって右就業規則第五五条第三号第四号にいう懲戒解雇に該当する行為があったものとはとうてい解されないのであり、本件カードの提出直後において同申請人が会社に対し自己の所為につき反省の態度を示さなかったことは証人A(第一回)の証言により一応認められるけれども、このことによって前記結論を左右するものと解されない。 よって結局本件懲戒解雇は就業規則の適用を誤ったもので、この点において無効というべきである。 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒手続〕 会社は右規定をもって労働基準法第二〇条三項の義務を使用者の義務としてまた定めたにすぎないというが、第一に懲戒解雇は労働基準法上の即時解雇としての面をもつにとどまらず、通常、退職金に関する労働者の権利を喪失させ、再就職の際にも不利益に評価される等将来にわたって労働者の社会的信用に影響を及ぼすものであるから、労働基準法の右法条を単純に移しかえたものとしたのではまかなえない面が残るものといわねばならない。第二に懲戒処分は労働者にとって刑事裁判に比すべき不利益処分であるから、予め明確に定められた懲戒規定(実体規定および手続規定を含む)によってなされなければならずその解釈に当っては文理上当然導き出されるところに従って解釈されなければならないと解されるところ、右労働協約、就業規則上の規定は、文理上も、除外認定を受けずに予告手当を支払って懲戒解雇できる趣旨のことは全く読みとれない。第三にその歴史的沿岸、社会的機能からみて労働協約、就業規則中の労働条件に関する規定は使用者の恣意的判断から労働者を守ることが最も重要な存在理由とされているのであるからその解釈に当っては労働者を保護する方向に厳格になされなければならない。以上の理由から労働基準監督署長の除外認定を受けない懲戒解雇は、これと異って解釈すべき特段の事情の認められない限り原則として無効と解すべきところ、申請人Xの懲戒解雇につき会社は労働基準監督署長の除外認定を受けていないのであるから、特段の事情のない本件にあっては解雇の意思表示はその効力を生じなかったものといわねばならない。 |