ID番号 | : | 01763 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 明治乳業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 休憩時間中、工場の食堂内で無許可でビラを配布し、会社製品の牛乳の盗飲、勤務時間中の仮眠、職場離脱等がたびたびに及んだことを理由に解雇された従業員が、右解雇は不当労働行為にあたり無効である等として地位保全等求めた仮処分申請事件。(申請却下) |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 政治活動 |
裁判年月日 | : | 1971年11月5日 |
裁判所名 | : | 福岡地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和43年 (ヨ) 1026 |
裁判結果 | : | |
出典 | : | 労働民例集22巻6号986頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒権の限界〕 申請人の前示懲戒事由該当行為は、右懲戒処分の前後で総計二三回と極めて多数にのぼり、しかも、前記(三)で認定したように、申請人は懲戒事由該当の行為のあった多くの場合に、上司、職制らの注意を受けたにかかわらず、主として職場離脱、職務放棄等を理由として一回目の懲戒処分(前示昭和四一年一一月二四日の処分)を受けたのちも、なお同種の違反行為を一〇回にわたって繰り返し(解雇事由17ないし19、22、27ないし32の事実)、かつ、半年間に二度の懲戒処分を受けながら、二回目の懲戒処分(前示昭和四二年四月一五日の処分)を受けて後も、右職場離脱ないし職務放棄等を含めて、懲戒事由該当の行為をさらに六回も反覆し(解雇事由25、26、29ないし32の事実)、盗飲、無断欠勤、職場離脱ないし職務放棄等多種多様な懲戒事由該当行為を重ねたものである点は、被申請人において、申請人に反省の色がないと強調するのもっともなことであり、その情状たるや決して軽いといえず、企業秩序維持の見地から被申請人が申請人を企業外に放遂したとしても誠に止むを得ないものというべきである。 そうだとすると、本件は、叙上の懲戒事由の存在を理由に懲戒解雇を相当として選択することすら可能といえる場合であるから、まさに就業規則四九条九号にいう「その程度が重いとき」に該当するといわねばならない。 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―政治活動〕 右ビラの配付は申請人個人の一種の政治的活動とみるほかないが、休憩時間中は、一時的に労働者が労働義務から解放され、使用者の労働指揮権が及ばないのであるから、その間は労働者の自由な利用に委ねらるべきものであり、組合活動であると政治活動であるとを問わず自由に行ない得るのが原則である。ただそれが企業施設内で行なわれるかぎり、使用者の施設管理上の規律に服することは認めなければならないけれども、政治活動が憲法一四条一項、一九条、二一条によって保障される個人の基本的権利であることを考えれば、それが禁止されるのは、現実かつ具体的に経営秩序が紊され、企業活動に支障を生ずる行為、たとえば喧噪、強制にわたるなどして、他の労働者の就労に悪影響を及ぼし、休憩時間の自由使用の妨げとなるもの等に限定されると解すべきである。 これを本件について見るのに、申請人は右ビラを休憩時間中に食堂の卓上に静かに置いていたもので従業員が右ビラを受け取るか否かは全く各人の自由に委されており、また申請人がAから右ビラを取り上げた後は、自らそこに居合わせた従業員に配付して回ったとはいえ、それを受領し、閲読し、または廃棄することも全く各人の自由に委されていたものと推測され、右ビラ配付行為によって他の従業員の就業に悪影響を及ぼし、休憩時間の自由使用が妨げられたとはとうてい認められないし、その他申請人の本件ビラ配付行為が被申請人会社の経営秩序を紊し、生産能率を低下させたことの疎明もない。 そうだとすると、申請人の一種の政治活動としてなされた本件ビラ配布行為は就業規則一四条の規制しているビラ配布行為には該当しないものと解するのが相当である。 当時、福岡工場においては、就業規則で定められている昼の休憩時間以外に、各職場毎に午前一〇時頃および午後三時頃の二回に、用便を済ませたり、喫煙をするために、いずれも一〇分程度のいわゆる一服時間と称する休憩の制度が慣行として確立していたこと、しかして、申請人は、同日、右一服時間を利用して、休憩中のBら五名に前記ビラを配布したこと、そして、このビラ配布は、前示「C民報」の場合と同様、組合支部の組合活動としてではなく、申請人個人の一種の政治的活動としてなされたことが一応認められ、これを覆すに足る疎明はない。 そこで、申請人のいわゆる一服時間における無許可のビラ配布行為が就業規則一四条に該当するか否かについて考える。前示のように一服時間が慣行として確立した休憩時間と見られる以上、既述の手空き時間と異なり、申請人ら従業員はその時間中は被申請人会社の指揮、監督のもとにおける労務提供の義務から解放されるものというべきである。従って、右該当性判断の基準については、先に15の休憩時間中の「C民報」配布行為の判断の個所で説示したところと何ら径庭はない。 そして、本件全疎明によっても、申請人の右ビラ配布行為が他の従業員の就業に悪影響を与え、もしくは従業員の一服時間の自由使用を妨げるなどして被申請人会社の経営秩序を紊し、生産能率を低下させたとは認められないから、結局、右行為は、前同様、就業規則一四条の規制しているビラ配布行為に該当しないものといわねばならない。 |