ID番号 | : | 01775 |
事件名 | : | 退職金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 久田製作所事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 競業会社への転職を企図して自己都合退職を申出た工場長が、企業秘密漏洩のおそれを理由として懲戒解雇され、退職金を支給されなかったので、右退職金の支払を請求した事例。(請求認容) |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項3号の2,9号 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 守秘義務違反 |
裁判年月日 | : | 1972年11月1日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和47年 (ワ) 1980 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労経速報804号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 右の認定事実によれば、原告がボーリングピン補修用塗料ピンパッチ等の製造に関し被告のいわゆる製法上の秘密を知悉しているということは、被告の右製造業務の遂行につきその労務を給付してきた結果、原告が技能及び経験を身につけて被告特有の製法に通暁するにいたったことを意味し、被告会社を退職して同種の営業を目的とするA会社の下請業務に従事することを意図した原告の独立自営計画が被告の嫌忌するところとなって、遂に被告が本件懲戒解雇をもってこれに報復したのも、被告特有の製法に通暁している原告が被告会社で身につけた豊かな経験並びに優れた技能を活かしてA会社の同種の製造業務にたずさわることによって、当然に被告のいわゆる製法上の秘密がA会社に洩れると看て取ったからにほかならないことが明らかである。しかしながら、被告会社退職後の競業避止ないし秘密保持の義務に関し、原被告間に特別の合意事項が存しないかぎり、(このような合意事項の存在について被告の主張立証はない。)原告が被告会社を退職して、自営たると雇用たるとを問わず、右経験及び技能を活かして被告と同種の製造業務に従事することは、これによって被告のいわゆる製法上の秘密が洩れるからといって、毫も妨げられるものでないし、したがって、原告が右経験及び技能を活かして被告と同種の製造業務に従事する意図をもって原被告間の雇用関係を終了させるための意思表示をおこなうことは右意図において被告のいわゆる製法上の秘密の洩れることが予測されるからといって妨げられるものでないのはもとより、もはやこれに対し就業規則上の懲戒規定をもって律すべき事項に属しないといわなければならない。そうすると、原告の被告に対する前記退職の申出が、かりに原告に右のような意図や予測があっておこなわれたとしても、これに対し懲戒解雇をもって臨む余地はありえない筋合である。被告の秘密漏洩に関する懲戒事由の主張もまた理由がない。 本件懲戒解雇は、すでにみたとおり、その懲戒事由についての被告の主張がいずれも理由を欠くから、無効であるというのほかはない。 |