全 情 報

ID番号 01777
事件名 契約関係存続等確認請求事件
いわゆる事件名 ラジオ関東事件
争点
事案概要  自動車修理代金、ガソリン等自動車用品購入代金について業者に架空の代金を請求させて金銭を着服もしくは着服しようとした自動車運転手らが、就業規則に基づき懲戒解雇されたので、労働契約上の権利を有することの確認、賃金の支払を請求した事例。(請求一部認容)
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
裁判年月日 1972年12月14日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (ワ) 4403 
裁判結果 一部認容
出典 労経速報803号44頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―職務上の不正行為〕
 原告X1が前認定のような方法でA会社またはB会社から別表(五)番号1ないし3欄および別表(六)番号1ないし11欄記載のとおり金員を受領しまたは受領しようとした行為は、正に業務に関し、不当に金銭を受領し、または私利を図った行為であり、その性質、態様ならびに被告に与えた損害等からしてこれが被告の企業秩序を著しく害するものであること明らかであるから、それ自体就業規則第五九条第七号所定の懲戒解雇事由に該当するものといわなければならない。
 (中 略)
 これによれば、同原告には反省の態度が全くみられず、自己の悪事を隠ぺいしようとするのみならず、かえってその責任を第三者に転嫁しようとするものであって、悪質きわまりないものというべきであるから、情状として特に酌むべきところも全くない。したがって、同原告には懲戒解雇されてもやむを得ない理由があるものといわなければならない。
 (中 略)
 そうすると、原告X2が前認定のような方法でB会社から別表(八)番号1ないし5欄記載のとおり金員を受領しまたは受領しようとした行為も、業務に関し、不当に金銭を受領し、または私利を図った行為であり、原告X1の場合につき説示したところと同様にそれ自体就業規則第五九条第七号所定の懲戒解雇事由に該当する。
 (中 略)
 これによれば、同原告の場合も自己の行為について反省するところもなく、悪事を継続してきたことは、厚顔無恥な態度というよりほかなく、情状として特に考慮すべき点は全くない。したがって、同原告にも懲戒解雇されてもやむを得ない理由があるものといわざるを得ない。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒手続〕
 ところで、右規定が解雇について当該組合員たる従業員と組合に対する事前通知を要するとしているのは、その規定の体裁からして、労働基準法第二〇条第一項本文が解雇につきその予告を要するとしているのと同趣旨であると解される。ただ組合に対しても事前通知を要するものとし、また当該組合員たる従業員に対する解雇予告手段の支給をもってこれに対する解雇事前通知に代えることはできないものと解される点において労働基準法第二〇条第一項本文と異なるに過ぎない。したがって、労働協約の右規定をもって解雇の効力規定と解し得るかどうかは、労働基準法第二〇条第一項本文の解釈とも関連して問題の存するところであるがそれはともかくとして、労働協約の右規定によれば、解雇について緊急を要する場合には当該組合員たる従業員と組合に対する解雇事前通知を要しないとされているので、まずこの要件について検討する。
 労働協約の右規定にいわゆる解雇について緊急を要する場合とは、解雇事前通知の原則に対する例外を認める要件であるから、一般的には、被告において当該組合員たる従業員を直ちに企業から排除しなければならない必要があり、被告に対し解雇事前通知義務を課するのが適当でないと認められる場合をいうものと解される。この意味においては、右規定が解雇について緊急を要する場合には解雇事前通知を要しないとしているのは、労働基準法第二〇条第一項但書の趣旨を受けたものとみられるのである。むしろ労働基準法第二〇条第一項但書は、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合または労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合に限り解雇予告を要しないとしているのであるから、労働協約の右規定よりもより限定的である。加えて労働基準法の右規定は強行規定である。そうすると、労働協約の右規定は結局労働基準法第二〇条第一項但書と同一に解されるべきものであり、そこにいう労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合に該当するときは、労働協約の右規定にいう解雇について緊急を要する場合にあたるものといわなければならない。けだし解雇について緊急を要する場合とは、その文言上会社側の都合を指すものと解されるが、従業員の側に後記のような責に帰すべき事由があって解雇のやむなきに至る場合は公平の原則からいっても、会社が即刻従業員を企業から排除する緊急の必要があると認められるからである。ところで労働基準法第二〇条第一項但書にいう労働者の責に帰すべき事由とは、労働者に重大な職務義務違反や背信行為等があり、その行為の重大性からして、解雇予告または解雇予告手当の支給を受けないで即時解雇されてもやむを得ないと考えられ、したがって使用者に解雇予告または解雇予告手当支給の義務を負担させるのが不適当であると認められる場合をいうものと解される。しかるに原告らは前認定のように不当に金銭を受領して会社に損害をおよぼし、被告の企業秩序を著しく害する行為におよんだものであって、これが労働者の責に帰すべき事由に該当することは明らかである。このような労働者こそ即刻解雇に値するのであって、これをなお三〇日間企業内に留めておかなければならないとするのは、被告に不当に過酷な受忍を強いるものである。したがって原告らに対する解雇は、労働協約の右規定にいう解雇につき緊急を要する場合にあたるものといわなければならない。そうすると、原告らの本件懲戒解雇には解雇事前通知を必要としないから、これがなされていないからといって本件懲戒解雇の効力を否定することはできない。