ID番号 | : | 01783 |
事件名 | : | 雇用関係確認請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 軽米町農業協同組合事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 勤務終了後、事務所宿直室において飲酒中同席していた上司と争いになり傷害を負わせ傷害罪で罰金刑を受けた農協職員が、懲戒解雇されたので、雇用契約上の地位確認を請求した事例。(原審、請求棄却) |
参照法条 | : | 労働基準法81条1項9号,91条 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の根拠 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務外非行 |
裁判年月日 | : | 1973年5月14日 |
裁判所名 | : | 仙台高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和45年 (ネ) 434 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例178号47頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒権の根拠〕 使用者は就業規則の中で懲戒に関する規定を設け、ここで定められた懲戒事由に該当する行為をした労働者を懲戒に付するのが通常であるから、使用者の懲戒権は就業規則の本質論とはなれては論じ得ないものである。就業規則の法的性質については説の岐れるところであり、元来、労働条件は、労働者と使用者が対等の立場において決定すべきであるが、多数の労働者を使用する近代企業においては、労働条件は、経営上の要請に基づき、統一的かつ画一的に決定され、労働者は、経営主体が定める契約内容の定型に従って附従的に契約を締結せざるを得ない立場に立たされるのが実情であり、この労働条件を定型的に定めた就業規則は、当該事業場内での一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範としての性質が認められるに至っているものということができ、労働基準法は右のような実態を前提として後見的監督的立場に立って、就業規則に関する規制と監督に関する定めをしているのであり、したがって当該事業場の労働者は、就業規則の存在及び内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受けるものと解すべきである(最高裁判所昭和四三年一二月二五日大法廷判決)。そうして事業場の規律、秩序が維持されない場合には使用者も労働者も含めて企業を形成する人的、物的施設に対して損害が発生するから、これを排除して規律、秩序を維持することが要請されるのは当然のことであり、資本主義体制のもとでは、使用者がその規律を維持して事業場の安全をはかり、秩序を保ち生産を高めるために、規律の維持に必要な措置を講じ、就業規則に従ってこれに違反する労働者に対し制裁を課する権利、すなわち懲戒権を有するものというべきである。懲戒はこのように支配者である使用者と被支配者である労働者という不平等者間において、支配服従の関係を前提として、規律違反労働者に対して加えられる制裁であり、秩序罰であって、平等、対等の地位にあるものと観念され、使用者と労働者との間に労働契約をとおして設定される債権関係に関する契約責任ないし契約罰とは、その法的性質を異にするものである。昭和四四年法律第六四号による改正前の労働基準法八九条一項八号にいわゆる「制裁の定め」とは、その文言のとおり制裁、すなわち秩序罰を認めたものであって、同法九一条は懲戒処分としての減給の制裁についての制限を定めたものというべきである。 もっとも労働者が企業秩序を維持し、服務規律に従って労働すべきことは、労働契約に基づいて労働者が当然負担すべき義務でもあるから、規律違反労働者を契約罰の対象とすることも可能であり、市民法上の法理によって処理することを原則とする労働契約にあっては、規律違反労働者に対しては、労働基準法の範囲内において、市民法の予定する解約(普通解雇)ないし損害賠償等によって解決するのが本則であるとみられないではないが、近代企業が一個の組織された統一体ないし社会として、経営主体とそこに使用されている個々の労働者の存在をこえてある程度独自の地位を取得し、したがってまた、そこに形成される客観的な企業秩序を維持するために、規律違反労働者に対する制裁としての懲戒を必要とすること自体については、これを否定すべき理由はない。支配、服従によって構成される独自の社会の存在を認めず、経営主体が本来的に懲戒権を有することを否定する見解は採用できない。 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―職務外非行〕 私生活の範囲における非行、勤務外の非行を理由としておよそ懲戒解雇をなしうるかについても、説の岐れるところであり、勤務外の非行は誠実に労務を提供することを義務づけられる労働契約の本質に何らかかわりのない事柄であるから、懲戒解雇の事由にならないとする消極的な見解もあるが、その具体的適用については慎重を要するとしても、労働者は私生活上においても、企業の信用をそこない、利益を害する言動を慎しむべき忠実義務があるのであるから、懲戒権の適用を全く排除すべきでない。控訴人引用の最高裁判所の判決も右の結論を前提としているものと解される。勤務外の非行を理由として懲戒解雇する場合には、使用者は客観的、合理的に妥当な就業規則の適用をなすべき義務があり、解雇事由の当否の認定、情状の判定等は使用者の自由裁量に委ねられるべきものではないと解すべきであるから、以下本件懲戒解雇事由の当否について検討する。 以上認定の事実によると、控訴人は昭和四三年にはわずか二箇月の間に酒によるあやまちではあるとはいえ、二度も暴行事件を繰り返えしており、過去において被控訴人から戒告処分こそ受けなかったが、これを改めることなく、前記佐々木に対する本件暴行傷害事件を引きおこし、傷害罪で罰金一万円の刑事処分を受けたもので、右事件の態様、結果及び控訴人の過去の暴行歴等を客観的に考察すると、控訴人の情状は著しく不良であり、強い非難に値するものというほかなく、勤務時間終了後三時間を経過した勤務外の非行であることを考慮し、前記佐々木に対する処分事由、内容と比較してみても、被控訴人がその経営秩序を侵害され、企業の信用をそこねられ、その体面を著しく汚されたと評価し、控訴人の責任を重視して懲戒解雇の措置に出たのはやむを得ないものといわなければならない。 |