全 情 報

ID番号 01785
事件名 地位保全等仮処分申請控訴事件
いわゆる事件名 大正製薬事件
争点
事案概要  ルート・セールス違反および勤務時間中に喫茶店に入った非行を理由とする製薬会社のセールスマンに対する懲戒解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
裁判年月日 1973年11月8日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (ネ) 1277 
裁判結果 棄却(確定)
出典 時報725号99頁/東高民時報24巻11号195頁
審級関係 一審/04181/東京地/昭45. 4.27/昭和42年(ヨ)2291号
評釈論文
判決理由  喫茶店入店行為といえども休憩に値いする時間中であれば格別、外商員がルート票に予定し命じられた最初の得意先への訪問活動に着手するに先立ち、原判決(一七枚目表二行目、同九行目、同裏六行目、一八枚目表五行目)に判示のように、一再ならず同僚を誘ない、ないしは談り合せて入店し長時間にわたることは、外商員としての業務の進行を円滑にするために必要不可欠であるとは認められず、情報交換のためには、他の方法・機会を利用するなど不断の努力について工夫の余地がないとはいえず、しかも、その時刻に朝食をとり、雑談することをも目的としたとすれば、予定し命じられた得意先の訪問をしなかった回数が少なくなかったと認定される控訴人にあっては、午前中の喫茶店利用が規律違反の怠業と目されてもやむないものと認められる。
 控訴人は本件事案は就業規則第五七条にいう「特に情状酌量の余地がある」場合に該当すると主張する。
 (中 略)
 控訴人は、それまでに喫茶店入店については、一回のけん責処分を受けただけであると主張(三の(二))するけれども、むしろ、既に一回のけん責処分を受けながら同種の違反をくり返すことは、「特に情状酌量の余地がある」場合となし難いというべきであり、しかも、本件処分の理由は喫茶店入店行為ばかりでなく、ルートセールス違反等も含まれており、被控訴人会社としては総合的に判断した結果就業規則第五七条の適用の余地なしとしたものであることは、弁論の全趣旨から明らかであって、控訴人指摘のような根拠では、本件はとうてい就業規則第五七条を適用すべき場合と解することはできない。
 (中 略)
 三の(六)の主張について、同項に指摘するような事実がおもての面に存したとしても、一方で、いわば目につきにくい、かくれた面で原判決認定のような本件解雇事由が存在している限り、被控訴人会社において就業規則第五七条を適用することなく本件懲戒解雇をなすに至ったことをもって、解雇権の濫用ないし信義則もしくは公序良俗違反と解することはできない。
 控訴人は三の(七)として、本件処分と、同僚であった申請外Aに対する被控訴人会社の待遇とを比較すると、本件処分は苛酷であり、少なくとも就業規則第五七条を適用すべきであったと主張する。そして《証拠略》によれば、Aは昭和四〇年四月頃から昭和四二年六月頃に至るまでの間、前後三回にわたり、被控訴人会社に対し、勤務時間中の怠業につき始末書を提出した事実を認めることができる。しかし、この点だけを取上げて、同人が控訴人と同等もしくはそれ以上に情状の悪い違反を重ねているものと速断することはできない。控訴人がルートセールス違反では極端であったことは、原判決認定のとおりである。一方、Aは昭和四〇年には外商員として表彰を受けていることも《証拠略》の示すところである。これらの諸要素をすべて総合してみなければ、処遇の比較はとうてい正確を期しえないものであり、少くとも控訴人の指摘する事実からでは、本件の控訴人に対する解雇を、不均衡、不公正であると解することはできない。