全 情 報

ID番号 01795
事件名 地位保全等仮処分異議控訴事件
いわゆる事件名 西日本鉄道事件
争点
事案概要  ワンマンバスの運転士が、勤務終了直後の所持品検査において、上衣左胸ポケットから一〇〇〇円札一枚を発見され、これを理由として就業規則に基づいて懲戒解雇されたので、従業員としての地位保全、賃金仮払の仮処分を申請した事例。(一審 申請認容、当審 控訴棄却)
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
裁判年月日 1975年2月26日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (ネ) 347 
裁判結果 棄却(確定)
出典 時報776号92頁/タイムズ326号240頁
審級関係 一審/03575/福岡地小倉支/昭48. 5.31/昭和47年(モ)353号
評釈論文
判決理由  昭和三八年四月ごろ所持品検査の際金銭を発見された運転士が右金銭は公金ではなく、同僚からひそかにポケットに入れられたものである旨弁解し、控訴人会社としては右弁解が信用できないものとして労使協議会に六〇条九号による懲戒解雇を提案したが、本人が自供しておらず、公金であることの客観的証拠がないとの理由で協議が成立しなかったことが動機となって、このような場合に対処する目的で、従来就業規則に明文上の規定のなかった運転士等の勤務中の私金所持禁止の六条の規定及び五九条(処分が出勤停止以下の懲戒事由)に右禁止規定違反を一七号として加える旨の規定と共に六〇条(処分が論旨解雇又は懲戒解雇の懲戒事由)の一三号に「私金携帯を禁止されている者が勤務中私金の証明がつかない金銭を携帯したとき」の規定を新設した。
 (中 略)
 右チャージ防止に関する就業規則の諸規定間の関係、六〇条一三号の新設されたいきさつ等を総合すると、右規定は懲戒の対象となる従業員の行為類型を設定するという通常の形態の懲戒規定ではなく、建前として運転士は勤務中私金の所持を禁止されているのであるから、勤務終了直後に金銭を所持している場合には、これが公金であるとの事実上の推定が働くところから、かかる場合にはこれが公金でないとの反証のない限り、仮令右金銭がどのような方法でチャージされた公金であるかを証明する客観的証拠がなくともこれを公金と認定せざるを得ないという、いわば事実認定上の当然の事理を表明したものにすぎず、したがって右規定はチャージを処罰するという六〇条九号または一一号と実質的に同一の規定であると解するのが相当である。
 (中 略)
 以上のように解するならば、例えば運転士の就業前の私金所持の有無の確認が徹底して行われていて、勤務中私金を所持している筈はないというような強い推定の働く場合などは格別、常に運転士の側で所持している金銭が私金であることの確実な証明をしなければならない義務を負わせたものということはできず、したがって右規定を無効とする被控訴人の主張は採用することができない。
 (中 略)
 以上のとおりであって、本件一、〇〇〇円札が私金であることを推認するに足りる資料に乏しいことは否定できないにしても、それ以上に公金であることの可能性は著しく乏しいのであるから、右一、〇〇〇円札をもって、私金の証明がつかない金銭であると見ることはできず、結局被控訴人の所為をもって就業規則六〇条一三号に該当するものと断定することができないことに帰する。