ID番号 | : | 01796 |
事件名 | : | 雇用関係存続確認等請求 |
いわゆる事件名 | : | 帝国通信工業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 退門時の守衛による所持品検査を拒否したことを理由として、就業規則に基づいて懲戒解雇された労働者が、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認および賃金支払を請求した事例。(請求認容) |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 所持品検査 |
裁判年月日 | : | 1975年3月3日 |
裁判所名 | : | 横浜地川崎支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和43年 (ワ) 368 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働民例集26巻2号107頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 山本吉人・労働判例226号39頁 |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―所持品検査〕 当日の原告の行為は、前記のとおりこれを全体として見れば検査拒否ということになり、被告会社企業秩序に違反するとの評価を受けることはやむを得ないとしても、原告の検査拒否は、実質的にみてその就業規則違反の程度において比較的重くないものというべきである。そして被告会社においても、原告の当日の行為自体については、これを重大な企業秩序違反であると見ていたものでないことは、叙上認定のとおり被告会社が原告に始末書を提出させる程度でこの事件の結末をつけようとしていたことからも推認できる。 (3)従って被告会社をして懲戒解雇という最も重い懲戒処分に踏み切らせたものは、事後における原告の態度、なかんずく原告が自己の行為に誤りはなかったとし、今後も検査を拒否するとの主張を変えなかったことにあるものと認められる。 以上(1)ないし(4)の事実その他叙上認定の諸般の事情を総合して考察すると、原告の行為は雇傭関係の存続を不可能ならしめる程重大かつ悪質なものであるとするには十分でなく、従って就業規則第七四条本文により懲戒解雇とするには苛酷に過ぎ、同条但書を適用して懲戒解雇以外の処分を選択すべき場合であったと認めるのが相当である。してみると本件懲戒解雇は客観的妥当性を欠き、権利の濫用であって無効であるといわなければならない。 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―所持品検査〕 およそ使用者が従業員に対して行なう所持品検査は、その性質上従業員の所持品に対する権利と衝突し、そのプライバシーを不当に侵害する危険性を内包しているのであるから、これが適法であるためには検査を行なう明文の根拠とその合理的必要性が存在し、かつ社会通念上妥当として是認できるような方法と程度において、従業員一般に画一的に実施されなければならないものというべきである(最高裁判所昭和四三年八月二日判決、民集第二二巻八号一六〇三頁)。 (中 略) 以上認定の事実によれば、本件所持品検査は就業規則、特殊勤務規定、服務規律等の明文の根拠に基づいて、権限を与えられた守衛によって行なわれ、かつその実施につき企業の機密漏洩を未然に防止するとの具体的必要性があったものと認められる。そしてその具体的必要性が生じたとき以降、退門しようとする従業員に対し画一的に実施され、これを行なう根拠については守衛から一応の説明があり、その方法もことさら従業員に屈辱感を与えるものではなく、妥当な方法と程度において行なわれたものと認めるのが相当である。してみると本件所持品検査は(二)の冒頭記載の要件を満たすものであって適法であり、従業員はこれを受忍する義務があるものといわなければならない。 |