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ID番号 01806
事件名 雇用契約存在確認等請求控訴、同附帯控訴事件
いわゆる事件名 中部日本放送事件
争点
事案概要  放送事業を営む会社の営業部員が、組合指令に従い、就業時間中にリボン、腕章、鉢巻等を着用し、上司の指示を拒否したこと等を理由として懲戒解雇されたので、雇用契約存在確認等を請求した事例。(一審 請求認容、当審 控訴棄却、また、原告による昇進し得べき期待権の侵害に対する賠償請求、当審で追加請求、棄却)
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1975年10月2日
裁判所名 名古屋高
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ネ) 613 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集26巻5号764頁
審級関係 一審/03660/名古屋地/昭47.12.22/昭和43年(ワ)101号
評釈論文
判決理由 〔賃金―賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
 弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第三六号証によれば、被控訴代理人主張の主事、主任、課長補佐の選考手続は、従業員中よりその能力、人物、業績、勤続年数等(社歴をも含めた時期もある)を勘案した選考基準に従い、所属長の意見をきき社長が常務会の議を経て発令するものであることが認められ、被控訴代理人のいうように、控訴会社の従業員はある勤続年数を経過すれば主事、主任、課長補佐に昇進できるというものではないから、被控訴人と同学歴、同年度に入社した者の過半多数が主張のとおり主事、主任、課長補佐に昇進していることを根拠に、被控訴人は少なくともその平均位において右地位に昇進すべき期待権を有しておりそれが侵害されたとはいえないのである。
〔懲戒・懲戒解雇―懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―違法争議行為・組合活動〕
 本件解雇事由となるべき行為の態様をみるに、被控訴人が上司である営業部長Aに対する「不当労働行為罪状証明」なる文書を作成展示したことについて、被控訴人は右文書を同営業部の自己の業務机の上、ガラス板との間に挿入していたものであって、故らに外部の者に公示する目的で行なったものとはみられず、同営業部長も厳しく右文書の収去を要求せずに存置させていたという事情があり、また、リボン、腕章、鉢巻等の着用についても、右行為は、訴外組合が昭和四〇年四月一日付配転命令、なかんづく訴外B、同C、被控訴人に対する配転命令に抗議することを主たる目的として、同組合闘争委員会、職闘会議の議を経て決定した指令に従ってなされたもので(指令の限度を故意に逸脱した事実を認むべき証拠はない)、被控訴人は控訴会社の業務に支障を生ぜしめることを目的としたものでなく、一方控訴会社の営業や人事をそれぞれ担当する幹部らも被控訴人の右行為が少なくとも当初は本訴において控訴人が主張するような重大なものと考えてはいなかった(そうでなければ、既に被控訴人を非難する顧客がでているのに組合の指令と称して着用をやめない被控訴人を懲戒する措置をとらないのみか、そのまま営業部で勤務させ、社外の仕事にも従事させていたことが理解できない。被控訴人の反省を待っていたためであるというならば、待つこともできる程度のことであるということになろう)こと、被控訴人は昭和四〇年四月一六日以降は主として同営業部の社内デスク業務に従事していたので、右リボン、腕章、鉢巻等を着用したままで直接取引先顧客と応接する機会は、さきに引用した原判決認定の特別の場合以外殆んどなしに経過していたことを考え合わせると、被控訴人が右リボン、腕章、鉢巻等を着用していたことに因り被控訴人を企業外に放逐しなければならない程控訴会社の業務に重大な障害が生じたものとは認められない。
 (中 略)
 そして、本件解雇理由に付加されている食堂への立入り、使用が懲戒事由として軽微なものとみるべきことについては、既に説示したとおりである。
 以上の如く、本件解雇理由となるべき被控訴人の行為の態様、訴外組合の闘争委員に対しなされた懲戒処分の内容、また被控訴人において過去に懲戒の前歴があるとか、ないし平常の勤務態度自体に格別問題のあった事実はうかがわれないことなど諸般の事情に照らすと、控訴会社が卒然として懲戒解雇の措置に出でたことは被控訴人に対し選択すべき懲罰の種類を誤り、懲戒されるべき行為に比し、合理的裁量の限度を超えて、過酷な処分を選択したものと判断することができ、結局本件解雇は懲戒解雇権を乱用した無効の処分と解すべきである。