ID番号 | : | 01821 |
事件名 | : | 懲戒処分無効確認請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 東洋電機製造事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 「従業員は別に定める手続きを経て許可を得た場合のほか、会社施設内において業務に関係のない印刷物などを配布し、・・・中略・・てはならない。」という就業規則上の規定にもかかわらず、共産党支部発行の印刷ビラ一枚を配布した従業員に対してなされた譴責および二日間の出勤停止の無効確認が求められた事例。(一部認容) |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 政治活動 |
裁判年月日 | : | 1977年11月1日 |
裁判所名 | : | 横浜地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和49年 (ワ) 140 |
裁判結果 | : | 一部認容 |
出典 | : | 労経速報965号21頁/労働判例290号55頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 一般に労働者は、その勤務する事業場または事務所内における行動については、使用者の有する右事業場等の一般的な施設管理権に基づく適法な規制に服さなければならない。もっとも、憲法は思想・信条の自由(一九条)を保障し、さらにその具体的な行動形態としての表現の自由(二一条)を基本的人権として保障しているから、使用者の右管理権に基づく労働者の行動規制も無制限であることをえず、管理上の合理的理由がないのに不当な制約を課する場合には、あるいは公序良俗に反するものとして、あるいは管理権の濫用として、その効力を否定せられることもありうるというべきである。しかし管理権の合理的な行使として是認されうる範囲内における規制であるかぎりは、これによって、就業時間中はもとより休憩時間中における労働者の行動の自由が一部制約されることがあっても、有効な規制として拘束力を有し、労働者がこれに違反した場合には、規律違反として労働関係上の不利益制裁を課せられてもやむをえないものと解さなければならない。 以上の観点からすれば、前記就業規則第一四条は、従業員の企業施設内における印刷物の配布等につき、従業員自身の行為あるいはこれと同視しうる行為を被告の許可にかからしめ、もって制限を加えてはいるが、そのために同条が無効であると解することはできない。けだし、企業施設内における従業員の印刷物の配布・掲示、放送、集会等の活動は、その方法、規模、態様の如何によっては職場の規律、能率に支障を及ぼすことは充分に予測されうるところであるから、これが全くの自由、無制約な恣意のままに許されるものではなく、叙上の制限は、施設管理権の合理的な行使として是認される範囲内のものといいうるからである。しかしながら、印刷物の配布、掲示、放送、集会等が職場の規律、能率に及ぼす影響も、その場所、時間、回数、内容あるいは企業側の対応の仕方などによりさまざまなものがありうるから、前記表現の自由保障の規定をも勘案較量すれば、許可のない印刷物の配布等につき、そのすべての場合に労働者の責任を求めうると解することは相当でなく、労働者の右の如き行動によって、現実に経営秩序が乱されて業務の正常な運営が阻害される場合、すなわち現実に就業の規律、能率が妨げられる場合、または、かような結果を招く虞れが著しい場合の違反行為に限って問責できる、と解すべきである。 (中 略) 本件ビラの配布は「組合活動に関するもの」ではないけれども、原告の行為は、その態様、規模において、また、ビラの内容にも照らし、未だ被告の職場秩序を乱したり、生産活動を阻害したりするものでなかったことは勿論、その虞れの著しいものでもなかったと断ずるのが相当である(人証判断略)。もっとも、原告の本件ビラ配布行為に関しては、ビラの内容に前記労働組合連合会の中央執行委員会を誹謗する文言が含まれているとして、昭和四九年一月二二日、戸塚工場労働組合の査問委員会において、原告に対し戒告および連合会の前期中央執行委員会あての謝罪文の提出を求める旨の裁定が下されたことは、原告の明らかに争わないところであるから、これを自白したものと見做す。しかし、右の事実は、原告の行為が組合における統制違反行為として、その内部に紛議をもたらすものであったことを示してはいるけれども、直ちに本件ビラの配布によって戸塚工場における就業の規律、能率が阻害されるに至ったこと、あるいはその虞れが著しかったことを推認させる資料ともなし難く、したがって、右の事実の存在は叙上の判断を妨げるものとはいえない。 (四)してみれば、原告の無許可ビラ配布行為は、未だこれを問責しうる職場規律違反とまでは目し難く、結局、本件懲戒処分は、被告において、就業規則第八八条一一号の適用を誤ったことに帰し、無効たるを免れないというべきである。 |