全 情 報

ID番号 01832
事件名 雇用関係等確認請求等控訴事件
いわゆる事件名 福知山信用金庫事件
争点
事案概要  他の労働者の諭旨解雇処分に対する抗議行動を理由とする謹慎処分(第一次)、会社施設への謹慎期間中の立ち入り禁止の仮処分命令を発した地裁への抗議行動を理由とする謹慎処分(第二次)、の二度の謹慎処分をすでに受けていたのにもかかわらず、誓約書(今後は良識に基づき行動し、違背行為があればいかなる処分も甘受する旨の誓約書)の提出を拒否したとしてなされた諭旨解雇処分の効力が争われた事例。(一審 請求一部認容、 二審 控訴棄却、請求一部認容)
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 始末書不提出
裁判年月日 1978年10月27日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (ネ) 843 
昭和53年 (ネ) 1085 
裁判結果 棄却
出典 労働判例314号65頁
審級関係
評釈論文
判決理由  (二)控訴人は、本件誓約書の提出を要求した時点ですでに解雇事由があったと主張する。しかしながら、被控訴人らの第二次謹慎処分前の行動については、謹慎処分が減給より重い処分であり、かつ、本件の謹慎処分が通じて二五日間という長期に及んだものであることを考えると、第一次、第二次の謹慎処分によって一応懲戒の目的を達し得ていたというべきである。そして、第二次謹慎処分中に被控訴人らのなした裁判所への抗議行動は勿論穏当なものとはいえないけれども、原判決認定の事実に徴すると、その態様において過激といえるほどのものでなく、時間的には裁判所の昼の休憩時間中におけるもので裁判所の執務の直接の妨げとなったものでもなく、その金庫に及ぼす影響もさして深刻なものとは認められない(この点に関する原判決の判断は十分是認することができる)。そうだとすると、右行動を理由に被控訴人らを解雇し、職場より永久に放逐することは程度をこえた苛酷な処分とのそしりを免れず、被控訴人らの行動を第二次謹慎処分の前後を通じて総合的に観察しても、誓約書提出要求の時点で解雇を正当ならしめるほどの非違行為があったと認めることはできない。
 (三)そこで、本件誓約書を提出しなかったことが、これ迄の被控訴人らの行為と相まち、本件解雇を正当ならしめるものであったかどうかについて考えるに、控訴人の要求した誓約書には包括的な異議申立権の放棄を意味するものともうけとれる文言が含まれていて、内容の妥当を欠くものがあったばかりでなく、そもそも本件のような内容の誓約書の提出の強制は個人の良心の自由にかかわる問題を含んでおり、労働者と使用者が対等な立場において労務の提供と賃金の支払を約する近代的労働契約のもとでは、誓約書を提出しないこと自体を企業秩序に対する紊乱行為とみたり特に悪い情状とみることは相当でないと解する。そうだとすると、本件においては、被控訴人らの本件誓約書の不提出並びにこれに関連する諸情状を考慮に入れても、解雇の正当性を基礎づけることはできず、結局本件解雇は懲戒権の濫用としてその効力を生じないものと判断せざるを得ない。