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ID番号 01862
事件名 労働契約存在確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 西日本アルミニウム工業事件
争点
事案概要  使用者がなした経歴詐称を理由とする懲戒解雇処分及び本件裁判中に確定した有罪判決を理由とする予備的懲戒解雇処分につき、解雇権の濫用であるとして、労働契約の存在の確認を求めた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 経歴詐称
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 有罪判決
裁判年月日 1980年1月17日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 昭和53年 (ネ) 417 
裁判結果 変更(上告)
出典 時報965号111頁/タイムズ414号134頁/労経速報1038号3頁/労働判例334号12頁
審級関係 上告審/01933/最高二小/昭60. 7.19/昭和55年(オ)412号
評釈論文
判決理由  〔懲戒・懲戒解雇―懲戒権の限界〕
 被控訴人は、本件犯罪行為は被控訴人が控訴会社に雇用される約五年前の行為であるから、控訴会社とは無関係であり、従って労働協約三四条一〇号には該当しない旨主張し、その裏づけとして譴責減給に関する同協約三三条が直接控訴会社に関係のある行為のみを対象としていることを対比すべき旨主張する。なるほど前叙争いのない控訴会社に被控訴人が雇用された日から逆算すると本件犯罪行為は右雇用に先立つ約五年前の行為であることが認められ、前顕乙第七号証(労働協約)によると、その三三条一号ないし一一号は専ら控訴会社における勤務中の行為を対象としているものと認められるが、同協約三四条は懲戒解雇に関する規定であり、その故に譴責減給に関する同協約三三条に比し経営としての企業秩序維持、会社の社会的信用保持の観点からみて、より重要な事項が列挙されているから、右両条の趣旨を同様に解すべきいわれはなく、三四条については別に同条所定の各号についてその趣旨を検討すべきである。ところで、同条各号もその大部分は会社の職務に関連した行為であるが、九号は単に「罰金以上の罪を犯し有罪判決の確定ありたるとき」と定められているのみで、右犯罪が控訴会社の職務に関連したものに限る旨の明文の制限はなく、また現業被用者につき有罪判決が言い渡され、それが確定した事実は、一般に当該犯罪が会社の職務に関して犯されたか否かにかかわりなく同人を控訴会社現場社員のまま留めておいては使用者たる会社の社会的名誉信用を害し、企業秩序をみだすといえるから、本件犯罪が被控訴人の控訴会社入社前に行なわれ、従って控訴会社の職務と無関係であるからといって本件犯罪につき被控訴人が有罪判決を受け、それが確定した事実が労働協約三四条九号に該当しないということはできない。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―経歴詐称〕
 被控訴人が労働契約締結に当り高校卒業以後の学歴を秘匿したことは雇い入れの際に採用条件又は賃金の要素となるような経歴を詐称した行為であるけれども懲戒解雇は経営から労働者を排除する制裁であるから、経歴詐称により経営の秩序が相当程度乱された場合にのみこれを理由に懲戒解雇に処することができるものと解するのが相当で、控訴会社の就業規則の経歴詐称に関する前記条項も右の趣旨に解すべきものであるところ、前認定のとおり、控訴会社は現場作業員として高校卒以下の学歴の者を採用する方針をとっていたものの募集広告に当って学歴に関する採用条件を明示せず、採用のための面接の際被控訴人に対し学歴について尋ねることなく、また、別途調査するということもなかった。被控訴人は二か月間の試用期間を無事に了え、その後の勤務状況も普通で他の従業員よりも劣るということはなく、また、上司や同僚との関係に円滑を欠くということもなく、控訴会社の業務に支障を生じさせるということはなかったのであるから被控訴人の本件学歴詐称により控訴会社の経営秩序をそれだけで排除を相当とするほど乱したとはいえず、本件学歴詐称が経歴詐称に関する前記条項所定の懲戒事由に該当するものとみることはできず、本件主位的解雇の意思表示は、その余の点につき判断を加えるまでもなく、無効というべきである。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―有罪判決〕
 会社の労働協約の三四条には、懲戒解雇と題し「次の各号の一に該当するときは懲戒解雇に処する、但し情状により論旨退職出勤停止又は減給に処することがある」旨規定し(中略)九号に「罰金以上の罪を犯し有罪判決の確定ありたるとき」と、一〇号に「前条に該当する情状特に重い時」、一一号に「その他各号に準ずる行為があったとき」と列記されていることが認められ、被控訴人に対する前叙有罪判決が確定したのであるから、特別の事情の認められない本件においては右九号に該当することが推認される。そして、本件犯罪行為の前叙のような態様、程度等に徴すれば、本件は、一〇号の「情状特に重い時」にも該当するということができる。
 (中 略)
 被控訴人は、本件予備的解雇は解雇権の濫用である旨主張する。なるほど、被控訴人は本件犯罪行為につき刑の執行を猶予されているけれども、刑法上の処罰と経営における懲戒とはおのずから目的を異にしているから、刑事罰につき執行猶予が付されたからといって、同一の行為につきなされる就業規則または労働協約上の懲戒処分においても当然処分の程度を軽減すべきいわれはなく、会社の名誉、信用、経営秩序に及ぼす影響等をも考慮して処分の程度を決すべきである。これを本件についてみるに、被控訴人の本件犯罪行為の態様は前叙認定のとおりであって、社会一般に大きな不安、迷惑を及ぼすものであり、その犯行は当時全国的に学生による同種の集団暴力事件が頻発していた最中に敢行されたことが公知の事実であることを考えあわせると、かかる犯行につき有罪判決が確定した被控訴人を雇用し続けることは、右犯行が入社前の行為であっても、控訴会社の対外的信用を害し、一般従業員にも悪影響を与えるおそれなしとは言い難いから、労働協約三四条但書によって情状を考慮することも相当でなく、他に本件予備的解雇を解雇権の濫用と認めるだけの証拠はない。