ID番号 | : | 01872 |
事件名 | : | 出勤停止処分無効確認等、従業員地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | ダイハツ工業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 欠勤理由の事情聴取につきプライバシーを侵害する等の理由で拒否した労働者に対してなされた出勤停止処分の効力が争われた事例。(労働者敗訴) |
参照法条 | : | 労働基準法2章,89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤 |
裁判年月日 | : | 1980年12月24日 |
裁判所名 | : | 大阪高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和52年 (ネ) 558 昭和52年 (ネ) 915 |
裁判結果 | : | (上告) |
出典 | : | 労経速報1091号12頁 |
審級関係 | : | 上告審/01902/最高二小/昭58. 9.16/昭和56年(オ)284号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒権の濫用〕 以上のことをかれこれ勘案すると、被控訴人の前記認定の行為は一応控訴人の主張する懲戒事由に該当する。そして、被控訴人としては自己の立場を主張、貫徹するにしても、企業組織の一員として自ずから守るべき節度があり、既に詳細に認定した本件懲戒解雇言渡に至るまでの被控訴人の行動とこれに対する控訴会社の対応を通観すると、被控訴人の行為は身勝手に過ぎることは否定できず、控訴会社が昭和四六年一二月以来一貫して反抗的な態度を示してきて被控訴人を企業秩序の維持、適切な労務管理を徹底する見地から企業外に排除しようとした意図は理解できないではない。しかしながら、前記事実からも窺われるように、控訴会社は、第二次出勤停止処分の期間が満了するにもかかわらず、いわゆる労務と現場との間で被控訴人の処遇に関して意思の疎通が十分でなかったため速やかな措置をとらず、日時を徒過し、いたずらに被控訴人の反撥を助長したとの指摘を受けても否めないところがあり、加えて被控訴人が当時未だ思慮の定まらない未成年者であったことなどを考慮すると、被控訴人に対し前記認定の行為をもって懲戒解雇処分に付することは遇酷な処分といわざるを得ず、懲戒権の濫用にあたり、右懲戒解雇を無効というべきである。 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―職務懈怠・欠勤〕 労働の提供と賃金の支払を基本とする労働契約関係においては他の契約関係以上に強く信義誠実の原則が作用し、使用者は、継続的に安定した労働の提供を受けられるとの前提のもとに労働者を雇用し、これを適切に配置して企業の効率的妥当な運営をはかるのであるから、労働者は、信義則に従った労働の提供義務があるのであって、欠勤は、単に労働不提供に対する賃金不払という債務不履行の効果を生ずるのみならず、その理由如何によっては、使用者の右正当な期待を裏切り故なく企業秩序を乱したとして懲戒あるいは成績査定の事由となり得るのである。したがって、使用者は、労務管理を適切に行うために労働者の欠勤理由を知る必要があり、労働者は、信義則に従った労務提供義務があるから、可能な限り欠勤についてその理由を明らかにすべき義務があるといえる。もっとも労働者は労働の提供について使用者の指揮監督に服するといっても、労働時間と労働場所を離れて無制限に使用者の干渉を受けることはなく、そのような私生活上の領域のことについてはたとえ欠勤理由を明らかにするためであっても無制限に報告義務があるとはいえない。しかし、欠勤理由はもともと私生活上の領域に関することが多く、労働者は原則としてそのような私生活上のことについて使用者に報告を強制されることはないといっても、使用者として欠勤前と変りない労働の提供が受けられるかどうかにかかわる労働者の長期欠勤中の生活環境、これに伴う心身の状態等については、労働者はできる限りこれを明らかにすべきであって、もし正当な理由なくこれを明らかにしない場合は、そのこと自体をもって「正当な理由のない欠勤」との評価も甘受すべきである。そうすると、欠勤理由についての事情聴取は、報告を強制しプライバシーを侵害したと認められない限り、合理的理由に基づくものであり、違法、不当ということはできない。 |