全 情 報

ID番号 01877
事件名 不当労働行為救済命令取消請求事件
いわゆる事件名 あけぼのタクシー事件
争点
事案概要  タクシー会社でタクシー乗務員として雇用され、かつ右会社の従業員で組織する組合の委員長、書記長が争議に際してタクシー車体に塗料で書込みを行ったこと等を理由としてなされた懲戒解雇について、雇用関係の存在確認等を請求した事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1981年3月31日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和53年 (行ウ) 1 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働民例集32巻2号211頁/時報1002号121頁/労働判例365号67頁
審級関係 控訴審/00922/福岡高/昭59. 3. 8/昭和56年(行コ)5号
評釈論文 中嶋士元也・中央労働時報684号20頁/渡辺章・ジュリスト771号154頁/本多淳亮・判例評論274号43頁
判決理由  〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―違法争議行為・組合活動〕
 営業車への書込闘争は、会社の車両を毀損し、かつ、会社の中止命令に従わなかった点で違法なものといえる。しかし、右行為に関しては、次のような事情も認められる。即ち、前記認定のように、組合においてもボディ部分への書込を実施するに際しては、一定の濃度の水性塗料を使用すれば車体を傷つけることなく水洗のみで書込を消せることを確かめたうえで実施されており、回復不能な車両毀損がなされないようにとの配慮がなされている。また、(証拠略)によれば、昭和五〇年の春闘に際しては、福岡市内の他の四、五社のタクシー会社労組においても、車体への闘争スローガン等の書込戦術がとられたが、いずれの会社においても右闘争を実施したことを理由として組合役員に対する懲戒がなされた形跡はなく、被告会社においても右闘争中止後本件解雇に至るまでの一年余の間、右闘争実施に関し組合役員の責任を問う態度を示したことはなかったことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。以上のような事情に照らして考えると、本件解雇以前会社には、右車体への書込闘争に関し組合役員を懲戒する意思はなかったと推認するのが相当である。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲解事由―会社中傷・名誉毀損〕
 ビラの記載には、表現に妥当性を欠いたり事実の誇張があり、組合側の正当性の一方的宣伝となっていることは否定できない。しかし、そもそも右ビラは、懲戒の正当性を巡って会社と対立、闘争中の組合が、他会社のタクシー運転手に支援を訴えるために作成されたものであるから、その性質上その表現がある程度事実を誇張したり自己の正当性の一方的主張となりがちなことは否定できず、それもある程度やむを得ないことと考えられる。本件ビラが右のような性格のものであることは、ビラの体裁や記載内容から明らかであるから、本件ビラを読む者においてもその記載内容を必ずしもすべて真実なものとして受け取るおそれはないというべきである。右事情に本件ビラ配布の直接の相手方がタクシー運転手に限定されていることを考え合わせると、解雇事由となるほどに会社の名誉、信用が害されたとするには疑問が存する。現に本件ビラ配布後本件解雇までの間に、本件ビラが会社の名誉、信用を害するものとして、会社から組合や組合役員に対し抗議や注意がなされた形跡はない。
 また、被告は、本件ビラの配布により従業員間に軋轢を生じさせ、就業命令に違反して原告らが欠務した旨主張する。しかし、前記判示のように、原告らが八月一四日から同月二〇日までの間に欠務したのは、運友会々員らの業務妨害によるものであるところ、前記のような本件ビラの性格を考慮すると、運友会々員らが自らの名誉保持のため組合役員らに対し抗議すること自体はともかくとして、その抗議のため原告らの会社における業務遂行を妨害することにはいかなる正当性も見出し難い。しかも、(証拠略)の結果によれば、会社は、運友会々員らの右業務妨害に対して口頭による注意を与えたものの、それ以上に右妨害排除のための積極的措置をとらず、組合員らが警察に通報する等して右妨害を排除したことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。以上の事情に照らして考えると、前記運友会々員との間に生じた摩擦や原告らの欠務をもって、就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するものとは解し難い。