全 情 報

ID番号 01891
事件名 懲戒処分無効確認請求事件
いわゆる事件名 船橋電報電話局事件
争点
事案概要  新庁舎移転に反対した原告らが移転当日実力による阻止行動に出たため業務の正常な運営が阻害された等として六ケ月の停職等の懲戒処分がなされたため、その無効確認が請求された事例。(一部認容)
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
裁判年月日 1982年9月17日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (ワ) 292 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 労働民例集33巻5号818頁/労働判例393号27頁/労経速報1137号16頁
審級関係 控訴審/03131/東京高/昭59. 9.13/昭和57年(ネ)2446号
評釈論文 井口衛・警察学論集36巻4号102頁
判決理由  懲戒事由がある場合に、懲戒権者が懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべきかは、その判断が、懲戒事由に該当すると認められる行為の性質、態様等のほか、当該被懲戒者の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の者及び社会に与える影響等、広範な事情を総合してされるべきものである以上、平素から事情に通暁し、部下の指揮監督の衝にあたる懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきであり、懲戒権者が右の裁量権を行使してした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないというべきである。したがって、裁判所が右の処分の適否を審査するにあたっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである(最高裁昭和四七年(行ツ)第五二号同五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)。
 本件についてこれをみると、まず原告堀越を除くその余の原告らについては、同原告らは、原告らが分会執行部内では少数派にとどまり、その意思を民主的なルールのもとで実現することが困難であったところから、実力をもってその意思の達成を図り、移転作業の当日に集団で組織的に実力を行使して早朝の午前七時一〇分頃から昼近くの午前一一時五五分頃まで約四時間四五分にわたり船橋局を混乱に陥れ、その正常な業務の運営を妨げたものであり、その際、原告X1は、本件阻止行動の立案から実行に至る全過程において終始リーダーとしてこれを指導実践し、また、原告X2、同X3、同X4及び同X5は、右X1とともに本件阻止行動の立案に参画したほか、本件行動においても、それぞれ中心的メンバーとして他の者を先導したものであって、このような原告らの行為の目的・態様及び結果等をすべて総合して判断するときは、被告が、原告X1に対して停職一〇か月、同X2、同X3、同X4及び同X5に対して停職六か月の各懲戒処分をしたことは、社会観念上著しく妥当を欠き懲戒権者に任された裁量権の範囲を逸脱したものということはできない。この点に関する原告らの主張は理由がない。