ID番号 | : | 01918 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 大久保製壜事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 勤務時間後、事業場内下請労働者であった精神薄弱者(女性)を寮からつれ出し性的行為に及んだことを理由として懲戒解雇された従業員が、右行為は両者の自由意思に基づくもので懲戒解雇の理由には当らない等として従業員としての地位の確認等求めた事例。(請求棄却) |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務外非行 |
裁判年月日 | : | 1984年4月26日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和53年 (ワ) 3489 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例435号67頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | ところで、成立に争いのない《証拠略》によれば、被告の就業規則九五条は懲戒解雇事由を列挙し、六号は「会社の名誉または品位を著しく傷つける行為をしたとき」と、九号は「公序良俗に違反しまたは法規に触れ、従業員としての体面を著しく汚したとき」とそれぞれ規定していることが認められるが、右のような懲戒の性質を考えると、これらの規定は、職場内又は職務遂行に関係のある所為のほか、職場外の職務遂行に関係のない所為であっても被告会社の企業秩序に直接の関連を有するものや被告会社の社会的評価を低下毀損するおそれがあると客観的に認められるものをも包含する趣旨であると解され、また、このように解する限りにおいて、これらの規定は有効なものと認められる。 本件についてこれをみると、本件処分の対象とされている前記行為は、職場外で行われた職務遂行に関係のないものではあるがA子の性的自由を犯し、良俗を害する行為であると評価しうるものであることは前示のとおりであり、かつ、また、本件行為が被告会社の就業時間に極めて接着した時間に被告会社のすぐ近くで行なわれたこと、被告会社及びB株式会社は、多数の精神薄弱者を雇用し、精神薄弱者である従業員に対しては就業時間内のみならず就業時間外においてもその日常生活について保護、指導、監督すべき立場にあり、これら従業員につき全寮制をとっているのもこのことの故であることなどを考慮すれば、これが企業秩序を乱し、被告の社会的評価を低下毀損するおそれがあると客観的に認められる行為であることが明らかであり、前記の被告の就業規則九五条六号及び九号に該当するものということができる。 次に、被告が本件行為を理由に原告を懲戒解雇に処したことの相当性について見ると、《証拠略》によれば、当時の被告会社の職場の状況は、精神薄弱者や身体障害者である従業員にとって必ずしも快適なものではなく、他の従業員や、時には管理職の者が、精神薄弱者や身体障害者である従業員に対して、暴力を振ったり、性的ないたずらをしたりすることが職場の内外において絶えず、男子従業員の女子精神薄弱者である従業員に対するわいせつ行為や姦淫行為も毎年一、二件起こるという好ましくない状態であったこと、昭和五一年に被告会社の人事部長に就任したCは、このような事態を非常に憂え、社内の秩序維持のためにはこれら従業員の非行に対しては厳しい処分で臨む必要があると考えていたことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はなく、更に、多数の女子の精神薄弱者を雇用し、寮に居住させている被告会社としては、その身上についての保護をすべき責務を負っているのであるから、風紀の維持に特に意を用いる必要があるものというべきである。これらの事情を考慮すれば、前記のような行為に及んだ原告に対して懲戒解雇処分という厳罰をもって臨んだ被告の処置は必ずしも合理性を欠くものとは断定できず、裁量の範囲内のものとして相当性を是認しうるものといわなければならない。 |