ID番号 | : | 01934 |
事件名 | : | 賃金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 東京急行電鉄事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 原告がプラスチック製プレートを着用して就労したのに対し被告会社が原告の就労を拒否し当該時間分の賃金をカットしたので、原告が右賃金の支払を求めた事例(棄却)。 |
参照法条 | : | 民法536条2項 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 政治活動 |
裁判年月日 | : | 1985年8月26日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和55年 (ワ) 9594 |
裁判結果 | : | 棄却(確定) |
出典 | : | 労働民例集36巻4・5合併号558頁/時報1166号165頁/タイムズ609号55頁/労働判例458号32頁/労経速報1232号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 中嶋士元也・季刊公企労研究67号82~90頁1986年6月/楢崎二郎・ジュリスト889号110~112頁1987年7月1日/浜村彰・労働法律旬報1142号34~45頁1986年4月25日 |
判決理由 | : | 1 労働者は誠実に職務に従事すべき義務を負うことは、労働契約の性質から当然のことである。したがって、労働者が勤務時間中にその職務と関係のない行為を行うことは原則として右義務に違反することとなり、この場合に右義務違反が成立するためには必ずしも現実に職務の遂行が阻害されるなどの実害が発生することまでは要しないものというべきである。そして、被告会社の前記就業規則八条の定めも、このことを明らかにしたものと解される。 (中 略) まず、本件プレートの着用が原告の職務と無関係なものであることは明らかであるところ、プレートを着用して就労することは、就労を行いつつ、同時に、プレートに表示された一定の表現活動を継続して行うことにその意義及び目的があるのであるから、単に、プレートを着用すればそれで一切の行為が完了し、爾後は着用者の提供する労務に欠けるところがないものとはいい難く、むしろ、着用者においては、就労中に職務とは関係のない自己の表現活動を行うことから、必然的にプレートを着用しつつ就労していることを常に意識せざるを得ないものである。したがって、プレートの着用によって直接には職務遂行に障害が生じないとしても、着用者は職務上の注意力の集中を欠くといわなければならないから、誠実に職務に従事すべき義務に違反するものということができる。 また、本件プレートは硬質プラスチック製であって、縦一〇センチメートル、横一四センチメートルというプレートとしては著しく大きなものであるうえ、その着用方法もピンで制服上着の左胸部に留めたというにすぎないのであるから、これを着用することは、その記載内容とも相まって制服着用の効用を減殺することは否定できず、更に、これを着用した上で作業に従事するときは、作業内容及び作業姿勢のいかんによっては作業に支障を来すおそれもあることは前記認定のとおりであり、その結果、原告自身あるいはその同僚に対する事故を誘発するおそれもないとはいえない。したがって、本件プレートの着用は、前記の各服装関係規定にも抵触するものである。 本件プレート着用行為は、以上のように労働契約や就業規則で定められた義務に違反するが、これに加えて、本件プレートが表示する内容は、いわゆる狭山裁判に関するものであって、それ自体被告会社の支配可能な領域外の事柄であるばかりか、その文言中には職場の同僚に対して職場放棄を呼び掛ける趣旨の記載もあり、その形状がプレートとしては著しく大きなものであることをも併せ考慮すれば、原告が本件プレートを着用して就労するときは、職場の同僚の注意をこれに引き付けてその職務に対する注意力を低下させ、また、職場内に違和感を醸成して職場秩序を乱すおそれがあったものということができる。 3 そうすると、原告が本件プレートを着用したままで就労すべきことを申し入れたとしても、これをもって労働契約上の債務の本旨に従った労務の提供であると解することはできず、原告の就労の申入れは、不完全な労務の提供であるといわなければならない。 |