全 情 報

ID番号 01944
事件名 仮処分異議事件
いわゆる事件名 アール・ケー・ビー毎日放送事件
争点
事案概要  住居侵入と傷害の嫌疑で起訴されたため会社によって起訴休職処分に付された従業員らが、刑事第一審で無罪となったことから、右休職処分の効果停止等求めた仮処分申請事件。(申請認容)
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 休職 / 起訴休職 / 休職制度の合理性
休職 / 起訴休職 / 休職制度の効力
裁判年月日 1970年10月8日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和44年 (モ) 2251 
裁判結果
出典 タイムズ257号191頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔休職―起訴休職―休職制度の合理性〕
 被申請人会社が起訴休職に関し右の各規定を設けた趣旨ないし目的が、単に、申請人の主張するような身柄拘束もしくは公判廷への出頭義務に基く就業不能もしくは困難のおそれに対する配慮ばかりではなく、被申請人がその主張(二)で述べる如く、公訴の提起を受けた従業員をそのまま職務に従事させることにより、対内的には職場の秩序が紊され、対外的には、特に公共性ある報道事業を営むものとして、暴力追放等のキャンペーンを展開するなどして長年月に亘って培ってきた被申請人会社の社会的、経済的信用が損われることに対する配慮にあったことは、証拠および弁論の全趣旨に徴して明らかである。
 (中 略)
 被申請人会社において、前示の配慮から、公訴の提起を受けた従業員につき、その者の身分を保有させたまま職務に従事することを拒絶する措置としての起訴休職の制度を就業規則上に規定することは、決して不合理であるとはいい得ない。
 〔休職―起訴休職―休職制度の効力〕
 ところで、公訴の提起による嫌疑の客観化といっても、国家の訴追機関による公訴があったという一事かもって嫌疑が客観化したまま固定してしまうわけではなく、例えば無罪判決の宣告があった場合など、その確定前といえども、特段の事情のない限り、一般人においても公訴の提起により一旦懐いた疑惑をそれなりに改めることが予測されるのであって、その意味で起訴により一旦客観化した嫌疑が無罪判決の宣告により客観化する以前の単なる嫌疑に戻ったとも解されるのである(国家の訴追機関によって起訴、上告が維持されているという意味で、なお客観化された嫌疑と呼びうるにしても、その嫌疑は著しく減殺されたものである)。
 そうとすれば、申請人らが、昭和四三年三月二三日、起訴事実に関しそれぞれ無罪判決の宣告を受けたことは前示のとおりであって、右特段の事情の主張も疎明もない本件においては、無罪判決の宣告の結果、被申請人会社の他の従業員、取引先である第三者或いは一般視聴者も申請人らに対し一旦は懐いた、起訴にかかる事実が真実かも知れないとの疑惑を改め、解消したと見るべく、しかも公訴の提起後すでに二年五ケ月の時の経過を考えるならば、無罪判決宣告後は、申請人らをその職務に従事させることによって、対内的に職場秩序が紊され、対外的に被申請人会社の信用が損われることのおそれは、上訴審においてなお有罪判決が言渡される可能性が存する点で全く解消したとまではいえないにせよ、大巾に消滅したというべきである。
 然るに、被申請人会社が、無罪判決宣告後もなお、申請人らが刑事々件で起訴されたという外形的事実と休職期間に関する就業規則の前記規定を楯に、申請人らの就業を拒否するのは、右に判断したところからいって、明らかに起訴休職制度が設けられた本来の趣旨ないし目的に徴し不当というほかなく、結局、人事権ないし裁量権の濫用として無効と解するのが相当である。