ID番号 | : | 03025 |
事件名 | : | 従業員地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 爽神堂事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 医師に対する組合からの解雇要求に対し、何らの努力もなく直ちに解雇することは信義則上許されず、また職務怠慢、手続違反等を理由とする解雇も、やむを得ない事情とはいえず無効とされた事例。 医師としての就労請求権の主張に対し、就労請求権は、労組法二七条にもとづく原職復帰が発せられた時のように明確な法的根拠がある場合、当事者間に特約がある場合、これを認める特別の合理的な利益を有する場合を除いては認められないとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働組合法27条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 就労請求権・就労妨害禁止 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度 |
裁判年月日 | : | 1987年3月2日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和57年 (ワ) 2229 |
裁判結果 | : | 一部認容 |
出典 | : | 労経速報1287号3頁/労働判例494号85頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-就労請求権・就労妨害禁止〕 原告は、医師としてのいわゆる就労請求権を主張するところ、そもそも、就労請求権は、労働組合法二七条にもとづく原職復帰命令が発せられたときのように明確な法的根拠のある場合ないしは当事者間に特約のある場合又はこれを認める特別の合理的な利益を有する場合を除いては、認められないものと解すべきであり、本件においては、かかる主張立証は全くないので、これを認めることはできないといわざるを得ない。 〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕 (2) そこで検討するに、原告が昭和五六年九月二日午後四時三〇分、午後八時の各診察の際、点滴、高圧浣腸を指示した点については、前記のような治療法についての諸見解を考慮するならば、医師の裁量行為たる治療行為として何ら失当なものであるとは考えられず、A死亡の原因としては心臓衰弱、薬の副作用による腸管機能の低下、腸閉塞の併発などが挙げられるが、いずれにしても突発的なことであり、当直医であった原告のとった措置に右死亡と直接結びつく落度があったと認められるものはない。なお被告は、同日午後七時二〇分ころ、Bの要請に対し原告が診察をしなかった点をとらえて批難するところ、苦しむ患者を前にする看護婦としてはより迅速に診察してほしいと思うのは当然のことであり、この点原告の態度に問題がないとはいえないが、前記のとおり、原告はBからAの血圧や熱の状態をたずねた結果、Aの状態が午後四時三〇分ころの状態よりも良くなっていると判断したのであるから、一応の注意義務を尽くしているというべきであり、結局、原告に医師としての能力に欠ける点があるとか、重大な職務怠慢行為があったとかの事実を認めるに至らない。 (中略) (2) ところで第三者たる組合から被告に対し、原告解雇の要求があったからといって、直ちにこれをもって本件条項にいう解雇もやむを得ない事情に当り、その要件を具備すると解することは失当であるといわなければならない。そもそも、使用者に対し特定従業員の解雇を要求し、その要求に応じないときはストライキに突入するという組合の要求自体その相当性に極めて疑問のあるところであるが、斯る要求があった場合、これと本件条項との関係は右要求の理由や被解雇要求者の立場、使用者と被解雇者との関係、使用者と第三者との関係などの諸事情を考慮して判断されるべきである。この点の判断は、後記3項の総合判断において説示することとする。 (中略) 3 そこで、次に、右解雇事由を総合して判断することとする。 被告の抗弁を総合すると、被告主張の解雇事由は大別して二つに分けることができる。すなわち、病院内の秩序を乱したことを事由とするものと職務怠慢ないし手続違反を事由とするものである。 そして、前認定事実によると、前者は、組合が、優越的地位を利用して組合員ら看護者の人事に不当に介入する医局に対して反感を抱いていたところ、原告は、C看護主任に誤解があったとはいえパジャマ問題により同主任を刺激させ、また、D看護主任に担当医である原告を無視する行為があったとはいえ同主任を強く難詰したため同人を憤慨させ、これが直接の契機となって、組合が原告追放の決議をするに至り、これに基づき、組合は被告に対し、原告の解雇を要求し、若し解雇しないときはストライキに突入する旨告知したというものである。右組合の解雇要求問題は原告の医師としての信用と被告の管理者としての能力を問う重大問題であるが、背景となった組合の側からみて横暴と写る医局の態度については被告にもその責任の一端がある。すなわち、病院における治療行為は医師と看護者との協同作業でもあるから、看護者の適正な配置について医局の意見をとり入れることは必要なことであり、被告も看護者の配置につき医局の意見をきいていたのにはなんら問題はないが、医局の不当な人事権の介入と写るまでに至ったのは、これを制限し誤解のない自主性のある人事権の行使を怠った被告自身にも責任があるといわざるを得ない。 このように考えてくると、被告としては、斯る組合の解雇要求があった場合、組合と医局ないし原告との間に入り、双方の融和をはかるための努力を試みるべきであり、それでもなお解決の糸口を見い出せないため解雇もやむなしとの結論に至った場合はともかく、右努力を試みることなく、直ちに右解雇要求に応じ原告をその職場から追放することは、原告に責任のすべてを負わせて自らの責任を回避するものであって、信義則上許されないものというべきである。また、組合のストライキ突入の告知に対しても、組合との労働協約三〇条に基づき、ともかくも労働委員会に対しあっせん、又は調停の申立てをなすなどストライキを一時的にも回避する努力をすべきであった。 |