ID番号 | : | 03028 |
事件名 | : | 雇用関係不存在確認請求事件 |
いわゆる事件名 | : | ニチバン事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 組織の編成替え、合理化等を理由とする配転命令につき、人選には合理性があり、配転命令権の濫用とはいえないが、不当労働行為として無効であり、右命令拒否を理由とする懲戒解雇も無効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反 |
裁判年月日 | : | 1987年3月18日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和54年 (ワ) 6160 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例495号19頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕 3 以上に認定した事実に基づいて本件配転の人選の合理性について検討する。 埼玉工場からの本件配転の対象人員数として原告会社が組織の編成替え、合理化等によって製造課から二九名をねん出することができるとの方針を決定したこと及び埼玉工場からの配転先としておもに関東以北の支店、出張所を予定したことについては、被告も特別その合理性を争っておらず、また、前記認定した事実からして合理性を有するものと認めることができる。ただ、埼玉工場からの配転先として他に距離的にも近接した大阪工場や安城工場が存在しているのにもかかわらず広島及び福岡支店にもあえて配属先を求めたことの理由については原告会社において十分な説明もなく、多少疑問がないではないが、この点については一連の交渉の過程において組合及び被告が格別問題とした形跡もなく、また、このような配属先予定地の決定それ自体が合理性を全く欠くというものでもないから、このことだけをとらえて右のような原告会社の方針決定がすべて合理性を有しないものということはできない。 次に、人選の基準の合理性について検討すると、被告はこれについて、人選基準の設定に当たっては運転免許の有無とか工業高校卒とかの客観的な基準を考慮すべきであるのに原告会社が行った人選基準は種々の要素につき相対的、総合的な判断を行ったというにすぎず、し意的な人選を可能とするものであって合理性を有しない旨主張する。しかし、いわゆる配転の際の人選基準なるものについては唯一絶対の客観的基準が存在するものではなく、当該会社の業務内容、配転人員数、配転の実施前後における会社の組織運営に対する影響度その他の会社を取り巻く状況等を勘案して合理的なものと認められれば足りるものと解されるところ、前記認定の人選基準は一応合理的なものと認めることができる(運転免許の保有の有無については〈証拠略〉によれば、中期経営計画によってセールスカーの増強が図られたとはいえ必ずしも販売員全員にセールスカーが行き渡っているものではないことが認められるし、運転免許の取得はそれほど困難なものでないことは公知の事実であるから、人選の時点において運転免許を保有しているか否かをそれほど重視する必要はない。また、工業高校卒であることが直ちに販売員として不適格であるということもできない。)。また、被告は原告会社の真実の人選基準は原告会社にとっての危険思想の持ち主、誓約署名に抗議した者、工場にとって不要の者というものである旨主張し、(証拠略)にはこれに沿う部分があるが、右証拠中の被告の供述はその内容において一貫しておらず、直ちに信用することができない。 そして、以上のような事情に加えて原告会社が被告を本件配転の対象者として選出した前記認定の理由とされる内容を考慮すると、原告会社が被告を配転対象者として選定したことについてはその合理性を肯定することができる。 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕 しかし、被告と原告会社との間では前記二で認定したとおり、被告が就業規則その他の諸規則に定める労働条件によって雇用される旨の労働契約を締結しているところ、(証拠略)によれば、労働契約及び就業規則上被告の職種あるいは勤務場所を限定する定めはなく、かえって就業規則上、「必要があるときは、出張、転勤、出向または職場の変更を命ずることがある。」旨定められていることが認められるのであること、及び(証拠略)によれば賃金体系上製造部門である作業職と営業部門である事務職とは区別がされてはいるものの、賃金の額は両者で全く同一であるとされていることが認められることからすると、労働契約上被告の職種及び勤務場所が限定されていて、本件配転のように企業の再建を図るためにやむを得ない配転についてまで被告の同意がない以上配転を行い得ないものとは到底解することができない。被告は、被告が原告会社に応募し採用された経緯からしても労働契約上職種及び勤務場所が限定されていると解すべきであると主張しているが、仮にそれが労働契約締結上の動機をなしているものとしても、このことが労働契約の内容となっているとまでは解し得ないことは前記の点から明らかであって、被告の主張は失当である。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕 以上のとおり、被告に対する本件配転命令は無効であるから、被告において右の配転命令に応ずる義務はなく、したがってこれに応じないことを理由に行われた本件懲戒解雇は無効であるというほかはなく、被告は、原告会社との間で労働者たる地位にあるものというべきである。 |