全 情 報

ID番号 03050
事件名 仮処分異議申立事件
いわゆる事件名 住友重機愛媛製造所事件
争点
事案概要  造船・重機部門等の不況に伴う経営合理化のために行われた整理解雇につきその効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
裁判年月日 1987年5月6日
裁判所名 松山地西条支
裁判形式 判決
事件番号 昭和54年 (モ) 197 
裁判結果 認容
出典 タイムズ650号153頁/労働判例496号17頁/労経速報1300号3頁
審級関係
評釈論文 新谷眞人・季刊労働法145号179~181頁1987年10月
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 自由主義経済の下においては、経営に関する危険を最終的に負担する企業は、企業運営方針の選択について専権を有し、業績不振に陥つたときにはその経営の合理化に必要な措置を本来自由に決定実施することができるものであるが、そのために行われる従業員の解雇は、責に帰すべき事由のない従業員から継続的雇用への期待と生活の経済的基盤を一方的に奪うものであるから、企業運営上の必要性を理由とする解雇の効力もこの点から一定の制約を受けるものであって、右就業規則も、このことを明らかにしたものと解される。そして右就業規則の「やむを得ない事業上の都合による」ものといえるためには、企業が高度の経営危機下にあって、その合理的運営上人員削減の必要性があり、解雇回避のための相当な経営努力が尽くされたが、なお解雇による人員削減が避けられない場合であることを要すると解すべきである。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 前記二の認定事実によれば、会社は石油ショック以降の厳しい世界的不況による需要の低迷、円高による競争力の低下、受注損益の悪化、中進国の急追等の経営環境の中で、急激に業績が悪化して行つたので、昭和51年ころから人員の減量のため、昭和51年以降の新規採用の原則的な中止、減耗人員の不補充、昭和52年10月以降の全社的な人員再配置、出向者の増員等を実行し、人件費削減のため、役員報酬のカット、管理職の30パーセントの勇退、一般従業員に対する時間外労働の規制、大量の一時帰休等を実施したが、経営環境は円高等により更に悪化し、景気の早期回復は期待できない状況に立ち至つたため、会社は昭和53年11月に経営改善計画を立案したものであるところ、これによれば、昭和53年度から昭和55年度までの間に実に840億円の巨額の実質赤字が見込まれたため、コストダウン等経営努力を払い、赤字に充当しうると会社が判断した内部留保金約300億円を取り崩した上で、更に会社としては、雇用調整により人件費を削減すると同時に生産構造を大幅に転換するため1917名の従業員を人員整理しなければならない合理的な必要があり、その後組合との協議で削減数をやむなく1200名に減少したことにより、より強くこれを達成すべき差し迫った必要性を有するに至つたものであつて、右経営改善計画立案後は、会社は約二か月の間希望退職者を募り、更に勇退基準を示して九日間全社的に希望退職者を募集し、愛媛地区では再度範囲を基準該当者に限定した二日間の希望退職の募集及び個別の退職勧奨を行ったがなお右計画による人員削減目標に達しなかったので本件解雇に至ったのであるから、右解雇の時点において会社は高度の経営危機下にあって、その合理的運営上人員削減の必要性が存し、解雇回避のための相当な経営努力が尽くされたが、なお解雇による人員削減が避けられなかったものと認められる。
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
 前記認定のとおり、会社は勧奨退職基準であると同時に整理解雇基準として勇退基準を設け、債権者に対して、同基準第2類型第1順位「共稼ぎの者で配偶者の収入で生計が維持できる者及び兼業又は副業があり、もしくは財産の保有など別途の収入があり、退職しても生計が維持できると判断される者、但し、業務上必要な者を除く」に該当するとして退職の勧奨を行い、これに応じなかった債権者を指名解雇したものである。整理解雇基準は、企業の効率的運営・再建の推進のために労働能力の劣る者からの整理を企図するもの及び労働者の経済生活保護のために生活に与える打撃の少ない者からの整理を企図するものが一般に合理性が高いとされているところ、右基準の本文は、後者の観点から解雇による打撃の少ない労働者を解雇の対象とするものであるが、この基準を機械的に適用するときは、企業の再建にとって不可欠の人材もその対象となり、企業の経済的困難を脱し、企業再建を図るという整理解雇本来の目的に反するおそれが生じるので、右基準但書は、労働者の生活保護と企業の効率的運営という二つの要請を調和させるべく必要最小限度の裁量権を企業に留保しようとしたものであって、これもやむをえない合理的なものといわざるをえない。そして整理解雇基準は、その性質上ある程度抽象的なものとならざるをえないのであるから、抽象性を理由として、直ちに右基準が合理性を欠くともいえないし、又その文言よりして男女とも等しくその対象となりうる(現に後記4認定のように男性も右基準に該当すると判定されている。)のであるから、専ら性別のみによる不合理な差別を定めた基準でもないことは明白であるので、右基準自体を不適法な権利濫用に該当するものということはできない。