ID番号 | : | 03059 |
事件名 | : | 不当利得返還請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 福井新聞社事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 同業他社から大量の引抜きが行われている状況下で会社を退職し、同業他社に就職した者に対して支払われた退職金につき不当利得として返還請求された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項3号の2 民法704条 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 退職金 / 競業避止と退職金 |
裁判年月日 | : | 1987年6月19日 |
裁判所名 | : | 福井地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和54年 (ワ) 126 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働判例503号83頁/労経速報1309号5頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 手塚和彰・ジュリスト951号152~155頁1990年3月1日 |
判決理由 | : | 〔賃金-退職金-競業避止と退職金〕 2 (一) 原告には、当初、同業他社へ就職する目的で従業員が退職した場合に退職一時金を不支給とする旨の規定は存在しなかったところ、昭和27年春ころ、原告を退職した元代表取締役Aが「B新聞」の発行を試み、原告の従業員17名を引き抜くという事態が生じたが、右規定不存在のため、これらの者に対して、退職一時金を支給せざるを得なかった。 そこで、昭和28年1月1日、退職金の不支給の場合として、原告の従業規則中の退職金規定に「会社の利害に大きな関係のある他の会社(又はこれに類する法人)へ最終的に就職する目的を以て退職するとき」(第10条2号)との規定(以下「旧規定」という。)、すなわち、従業員に競業避止義務を課す規定が新設された。 (二) そして、旧規定は、昭和38年4月、本件不支給規定に改正され、更に、前記大量退職のさなかの昭和51年11月9日、「福井県において当社と競争関係にある同業他社へ就職するため退職したとき、または同業他社の引き抜きに応じ退職したとき」は退職一時金を支給しないとする5号規定(以下「新規定」という。)が退職一時金規定第3条の中に追加された。 (中略) 3 右退職一時金不支給規定の変遷の経緯及び労働組合の右同意の内容に加えて、被告ら及びCら4名の退職者が、終始、真実の退職理由を秘していたのは前記認定のとおりであるところ、これは、被告ら及び矢野ら4名の退職者自身がD社へ就職する目的での退職に対しては、退職一時金が支給されない虞があることを認識していたためであると解されること等を総合すれば、本件不支給規定は、旧規定及び新規定のように文理上必ずしも、明確に競業避止義務を唄ったものではないが、原告の企業防衛のための規定であって、従業員が同業他社に就職することによって、業務に著しい障害を与えるような場合をも想定した規定であり、また、新規定は、本件不支給規定の内容を注意的に具体化したものと解するのが相当である。 4 そして、被告らが、福井県の新聞業界を取り巻く厳しい状況を認識しつつ、新たに設立され、加えて、原告の従業員を大量に引き抜くことが計画されていた同業他社であるD社の事業に参画するために原告を退職し、その計画が実行された結果、原告の平常の新聞発行業務にも支障をきたしたことは前記認定のとおりであるところ、このような退職は、右で認定した本件不支給規定の趣旨に照らすと、正に、右規定に該当するというべきである。 5 以上のように、被告らの退職は本件不支給規定に該当し、被告らは、本来、退職一時金の支給を受ける地位になかったものであるにもかかわらず、真の退職理由を秘して、それぞれ退職一時金の支給を受け、原告に右各退職一時金相当額の損失を与え、これを不当に利得したものといわざるを得ない。 (なお、前掲各証拠によれば、被告らは労働組合の活動が活発であったため、管理職として、苦労した事実は窺えるものの、その故をもって、前記被告らの退職が、本件不支給規定に該当しないということはできない。) |