ID番号 | : | 03065 |
事件名 | : | 雇用関係確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 新興工業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | QCサークル活動のための「作業ミス報告書」の提出指示に従わなかったことを理由とする解雇の効力が争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法3章 民法1条3項 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反 |
裁判年月日 | : | 1987年7月2日 |
裁判所名 | : | 神戸地尼崎支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和59年 (ワ) 41 |
裁判結果 | : | 一部認容 |
出典 | : | 労働判例502号67頁/労経速報1311号15頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 小西國友・ジュリスト956号122~124頁1990年6月1日/野間賢・季刊労働法146号188~189頁1988年1月 |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕 QCサークル活動は、前述のように、従業員の自主的な活動を促し、サークル活動に対する参加意識をたかめることによって品質管理の目的を達成しようとするものであり、従業員の自主性を尊重し、その自覚的な努力に期待しようとするものである。しかし、その自主性とは、自らの作業上のミスを、他人からの指摘を待たずに自発的に申告するという意味での自主性であり、提出するかどうかはまったく本人の任意とするという意味ではない。すなわち、会社の管理者側の方で、ミスの発見のために従業員の執務状況を監視したり、殊更に探索追及するようなことはせず、従業員の自主申告を信頼するかわりに、従業員の側でも、ミスがあれば正直に自主申告すべき誠実義務がなければならず、それによって従業員の方で自覚的にミスの発生の防止に努力することを期待するものであるから、申告しても、しなくても、本人の自由勝手という意味での自主性ではない。したがって、それは、従業員の自主的な申告であっても、ミスがあれば必ず提出すべきものであり、それは、被告が、従業員に対する労務指揮監督の権限にもとづいて、従業員にその提出を義務づけるものであって、従業員の方でもこれに従うべき業務命令の一つであると解するのが相当である。 (中略) 昭和五六年一〇月頃被告に入社して以来作業ミス報告書の提出の問題が生ずるまでは、熔接板金工としての原告の勤務態度は、他の従業員に比して作業上のミスが若干多かったことが窺われるものの、会社の指示、命令に反するなど特に問題となるところもなかったこと、原告は、作業ミス報告書の提出は拒んでいたものの、被告で働く意思は十分に認められ、勤務意欲に欠けるわけではないことが認められ、熔接板金工の業務自体については不適格とすべき事由はないものと考えられる。 これらの事情と、作業ミス報告書の提出が、原告の本来の職務である熔接板金工としての仕事自体ではなく、従業員としての服務規律の面での義務であることを考慮すれば、被告としては、ただちに原告を解雇するよりは、むしろ従業員教育をさらに進めて原告を指導矯正するように努めるべきであり、実際に作業ミス報告書を提出しないという業務上の指示違反行為があれば、これに対しては、その都度先ず被告の就業規則(〈証拠略〉)四七条所掲の制裁(けん責、減給、出勤停止)を課して原告の反省を促し、それでもなおかつ原告の態度が改まらない場合にはじめて解雇をもってのぞむという方法を取ることも十分可能であったと考えられる。したがって、それらの手順を尽すことなく、本件解雇予告の時点で原告の従業員としての適格性を直ちに否定し、企業から完全に排除することは苛酷に過ぎ、就業規則の運用上妥当を欠くといわざるを得ない。そうすると、原告は、本件解雇予告がなされた時点においては、まだ就業規則一三条三号の「勤務成績及能率が不良で就業に適さないと認められるとき」に該当していなかったものとすべきであるから、これを理由になされた本件解雇は、その余の点について判断するまでもなく解雇理由を欠くものとして無効であるといわざるを得ない。 |