ID番号 | : | 03070 |
事件名 | : | 懲戒処分無効確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 時事通信社事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 通信社の社会部所属の記者が一カ月間にわたる年休の時季指定をしたのに対し、右通信社が社会部では欠員をカバーできないとして右のうち半分について時季変更権を行使したが、右記者が年休を取得したとして出勤しなかったことを理由とするけん責処分が有効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法39条4項(旧3項) 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 年休(民事) / 年休権の法的性質 年休(民事) / 年休の成立要件 年休(民事) / 時季変更権 |
裁判年月日 | : | 1987年7月15日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和56年 (ワ) 4463 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働民例集38巻3・4号366頁/時報1242号31頁/タイムズ648号175頁/労働判例499号28頁/労経速報1297号3頁 |
審級関係 | : | 控訴審/04065/東京高/昭63.12.19/昭和62年(ネ)2183号 |
評釈論文 | : | 西村健一郎・月刊法学教室87号88~89頁1987年12月 |
判決理由 | : | 〔年休-年休権の法的性質〕 〔年休-年休の成立要件〕 1 年次有給休暇の権利は、労基法三九条一、二項の要件がある場合に法律上当然に労働者に生じる権利で、労働者がその有する休暇日数の範囲内で具体的な休暇の始期と終期を指定して時季指定を行ったときは、同条三項ただし書の事由が客観的に存在し、かつ、使用者がこれを理由として時季変更権の行使をしない限り、労働者の時季指定によって年次有給休暇が成立し、当該労働日の就労義務が消滅するものである。そして、同条三項ただし書にいう「事業の正常な運営を妨げる」事由が存するかどうかについては、事業の規模及び内容、労働者の従事する職務の性質及び内容、職務の繁閑、代行者の配置の難易やこれに伴う影響の度合い、休暇の期間の長短、時季を同じくして年次有給休暇を取得しようとする者の人数その他諸般の事情を考慮して、客観的に、かつ、年休制度の趣旨に反することのないよう合理的にこれを決すべきものである。 本件においては、原告が所属する第一編集局の業務についてその正常な運営を妨げる事由があるかどうかが問題となるのであるが、本件は一か月に及ぶ連続した休暇であり、このような長期の欠員が生じるような場合には前記のように被告会社においては第一編集局内でこれを処理するというのではなく、そのうちの当該欠員の生じる部においてこれをカバーするというのが一般であり、また、これが取材の観点等からみた場合の各部の業務実態にも合致するということができるから、その判断に当たってはまず原告の所属する社会部についてこれを判断することになる。そして、具体的には、原告が被告会社のただ一人の科学技術庁の科学記者クラブの所属記者であったことからして、その判断に当たっては原告の代替記者を社会部内において調達することの可否及びこれにより科学記者クラブの所属記者としての職務遂行に欠けることがないかどうかが問題になる。 〔年休-時季変更権〕 3 そうすると、原告の前記年次有給休暇の時季指定に対して、被告会社がその当初の一五日間については被告会社の事業の運営上一応の支障はあるもののこれを承認し、残りの一五日間については事業の正常な運営を妨げるものとして時季変更権を行使したことはやむを得ないものというべきであり、また、このように解したとしても原告においては少なくとも二週間の連続休暇を取得することができたのであるから年次有給休暇制度の趣旨にも格別反するものではないというべきである。 従って、原告が指定した年次有給休暇のうち昭和五五年九月六日から同月二〇日までのうち時短休日等を除く一〇日間について被告会社がした時季変更権の行使は適法なものであって、原告はこの期間についてはなお就労義務を負っており、被告会社から就労するよう業務命令を発せられていたにもかかわらずその間の勤務を欠いたものとなるから、被告会社がこのことを理由として原告に対して職員懲戒規程(成立に争いのない甲第一六号証によって認められる。)の「職務上、上長の指示命令に違反したとき」(四条六号)に該当するものとしてけん責処分としたことは正当である。また、原本の存在及び成立に争いのない乙第四号証によれば、被告会社と労働者委員会との間において昭和五五年年末賞与等について欠勤日数に応じて一日当たり支給額の一八〇分の一を減額するとの労働協約が締結されたことが認められるから、被告会社がこれに従い、同年年末賞与の支給に際して原告の賞与を四万七六三八円減額したことは正当なものということができる。 |