ID番号 | : | 03072 |
事件名 | : | 賃金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | ノース・ウエスト・エアラインズ事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 部分ストライキが原因でストライキ不参加労働者の労働義務の履行が不能になった場合、使用者が不当労働行為の意思その他不当な目的をもってことさらストライキを行わしめたなどの特別の事情がない限り、右ストライキは民法五三六条二項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」には当たらず、当該不参加労働者は賃金請求権を失うものとされ、本件では右特別の事情は存しないとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法26条 民法536条2項 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 一部スト・部分ストと賃金請求権 賃金(民事) / 休業手当 / 労基法26条と民法536条2項の関係 賃金(民事) / 休業手当 / 部分スト・一部ストと休業手当 |
裁判年月日 | : | 1987年7月17日 |
裁判所名 | : | 最高二小 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和57年 (オ) 1190 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 民集41巻5号1350頁/時報1252号126頁/タイムズ652号105頁/労働判例499号15頁/労経速報1296号6頁/裁判所時報966号2頁/金融商事786号42頁/裁判集民151号501頁 |
審級関係 | : | 控訴審/00939/東京高/昭57. 7.19/昭和55年(ネ)472号 |
評釈論文 | : | 岩渕正紀・ジュリスト902号90~91頁1988年2月15日/岩渕正紀・法曹時報41巻11号209~222頁1989年11月/荒木尚志・法学協会雑誌106巻9号191~202頁1989年9月/高木紘一・法学〔東北大学〕52巻2号182~187頁1988年6月/三宅正男・判例評論351〔判例時報1266〕216~221頁1988年5月1日/福島淳・日本労働法学会誌71号116~123頁1988年5月/林修三・時の法令1315号82~90頁1987年10月15日/林和彦・昭和62年度主要民事判例解説〔判例タイ |
判決理由 | : | 〔賃金-賃金請求権の発生-一部スト・部分ストと賃金請求権〕 一 企業ないし事業場の労働者の一部によるストライキが原因で、ストライキに参加しなかった労働者が労働をすることが社会観念上不能又は無価値となり、その労働義務を履行することができなくなった場合、不参加労働者が賃金請求権を有するか否かについては、当該労働者が就労の意思を有する以上、その個別の労働契約上の危険負担の問題として考察すべきである。このことは、当該労働者がストライキを行った組合に所属していて、組合意思の形成に関与し、ストライキを容認しているとしても、異なるところはない。ストライキは労働者に保障された争議権の行使であって、使用者がこれに介入して制御することはできず、また、団体交渉において組合側にいかなる回答を与え、どの程度譲歩するかは使用者の自由であるから、団体交渉の決裂の結果ストライキに突入しても、そのことは、一般に使用者に帰責さるべきものということはできない。したがって、労働者の一部によるストライキが原因でストライキ不参加労働者の労働義務の履行が不能となった場合は、使用者が不当労働行為の意思その他不当な目的をもってことさらストライキを行わしめたなどの特別の事情がない限り、右ストライキは民法五三六条二項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」には当たらず、当該不参加労働者は賃金請求権を失うと解するのが相当である。 〔賃金-休業手当-労基法26条と民法536条2項の関係〕 〔賃金-休業手当-部分スト・一部ストと休業手当〕 ところで、労働基準法二六条が「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合に使用者が平均賃金の六割以上の手当を労働者に支払うべき旨を規定し、その履行を強制する手段として附加金や罰金の制者が設けられている(同法一一四条、一二〇条一号参照)のは、右のような事由による休業の場合に、使用者の負但において労働者の生活を右の限度で保障しようとする趣旨によるものであって、同条項が民法五三六条二項の適用を排除するものではなく、当該休業の原因が民法五三六条二項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」に該当し、労働者が使用者に対する賃金請求権を失わない場合には、休業手当請求権と賃金請求権とは競合しうるものである(最高裁昭和三六年(オ)第一九〇号同三七年七月二〇日第二小法廷判決・民集一六巻八号一六五六項、同昭和三六年(オ)第五二二号同三七年七月二〇日第二小法廷判決・民集一六巻八号一六八四項参照)。そして、両者が競合した場合は、労働者は賃金額の範囲内においていずれの請求権を行使することもできる。したがって、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合において、賃金請求権が平均賃金の六割に減縮されるとか、使用者は賃金の支払いに代えて休業手当を支払うべきであるといった見解をとることはできず、当該休業につき休業手当を請求することができる場合であっても、なお賃金請求権の存否が問題となりうるのである。 |