ID番号 | : | 03074 |
事件名 | : | 賃金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | ノース・ウエスト・エアラインズ事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 航空会社における労働者「派遣」につき職業安定法四四条違反があるとして、当初から要求貫徹を目指してストライキを決行したのに対し、右ストライキによる組合所属のストライキ不参加労働者に休業を命じたことにつき、会社側に起因する経営、管理上の障害によるものということはできないので、労基法二六条にいう「使用者の責に帰すべき事由」による休業とはいえないとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法26条 民法536条2項 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 一部スト・部分ストと賃金請求権 賃金(民事) / 休業手当 / 休業手当の意義 賃金(民事) / 休業手当 / 労基法26条と民法536条2項の関係 賃金(民事) / 休業手当 / 部分スト・一部ストと休業手当 |
裁判年月日 | : | 1987年7月17日 |
裁判所名 | : | 最高二小 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和57年 (オ) 1189 |
裁判結果 | : | 破棄(自判) |
出典 | : | 民集41巻5号1283頁/時報1252号130頁/タイムズ652号109頁/労働判例499号6頁/労経速報1296号3頁/裁判所時報966号1頁/金融商事786号40頁/裁判集民151号475頁 |
審級関係 | : | 控訴審/00939/東京高/昭57. 7.19/昭和55年(ネ)472号 |
評釈論文 | : | 伊達隆英・労働判例百選<第5版>〔別冊ジュリスト101〕260~261頁1989年3月/岩渕正紀・ジュリスト902号90~91頁1988年2月15日/岩渕正紀・法曹時報41巻11号200~209頁1989年11月/荒木尚志・法学協会雑誌106巻9号191~202頁1989年9月/高木紘一・法学〔東北大学〕52巻2号182~187頁1988年6月/坂本宏志・労働法律旬報1185号59~65頁1988年2月10日/三宅正男・判例評論351〔判例時報1266〕216~221頁1988年5月1日/小俣勝治・季刊労 |
判決理由 | : | 〔賃金-休業手当-休業手当の意義〕 〔賃金-休業手当-労基法26条と民法536条2項の関係〕 労働基準法二六条が「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合に使用者が平均賃金の6割以上の手当を労働者に支払うべき旨を規定し、その履行を強制する手段として附加金や罰金の制度が設けられている(同法一一四条、一二〇条一号参照)のは、右のような事由による休業の場合に、使用者の負但において労働者の生活を右の限度で保障しようとする趣旨によるものであって、同条項が民法五三六条二項の適用を排除するものではなく、当該休業の原因が民法五三六条二項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」に該当し、労働者が使用者に対する賃金請求権を失わない場合には、休業手当請求権と賃金請求権とは競合しうるものである(最高裁昭和三六年(オ)第一九〇号同三七年七月二〇日第二小法廷判決・民集一六巻八号一六五六頁、同昭和三六年(オ)第五二二号同三七年七月二〇日第二小法廷判決・民集一六巻八号一六八四頁参照)。 そこで、労働基準法二六条の「使用者の責に帰すべき事由」と民法五三六条二項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」との異同、広狭が問題となる。休業手当の制度は、右のとおり労働者の生活保障という観点から設けられたものではあるが、賃金の全額においてその保障をするものではなく、しかも、その支払義務の有無を使用者の帰責事由の存否にかからしめていることからみて、労働契約の一方当事者たる使用者の立場をも考慮すべきものとしていることは明らかである。そうすると、労働基準法二六条の「使用者の責に帰すべき事由」の解釈適用に当たっては、いかなる事由による休業の場合に労働者の生活保障のために使用者に前記の限度での負担を要求するのが社会的に正当とされるかという考量を必要とするといわなければならない。このようにみると、右の「使用者の責に帰すべき事由」とは、取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであって、民法五三六条二項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当である。 〔賃金-休業手当-部分スト・一部ストと休業手当〕 〔賃金-賃金請求権の発生-一部スト・部分ストと賃金請求権〕 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。すなわち、上告会社が従前グラウンドホステス業務及び搭載業務にA会社の労働者を従事させ、自己の従業員と混用していたことが職業安定法四四条に違反する疑いがあり、このことが本件ストライキの発生を招いたことは否定できないものの、上告会社は、A会社派遣のグラウンドホステスの正社員化と搭載課業務下請導入中止という本件組合の要求の趣旨を一部受け入れて、A会社派遣のグラウンドホステスの正社員採用の方針を回答し、更にA会社の労働者を上告会社の従業員と分離し、これらの労働者には上告会社がA会社に売却する機材を使用して特定の便の搭載業務を請け負わせることとする改善案を発表し、これによって職業安定法違反はなくなると説明していたのであり、右説明自体は、一つの見解としてそれなりに首肯しえないものではない。これに対し、本件組合は、上告会社とは異なった見解に立ち、右改善案によっても職業安定法違反の状態は除去されないとして、あくまでも搭載係員の統合撤回及び機材売却中止という要求の貫徹を目指して本件ストライキを決行し、上告会社の業務用機材を占拠して飛行便の運行スケジュールの大幅な変更を余儀なくさせたというのであるから、本件ストライキは、もつぱら被上告人らの所属する本件組合が自らの主体的判断とその責任に基づいて行ったものとみるべきであって、上告会社側に起因する事象ということはできない。このことは、上告会社が本件休業の直前A会社との間で締結した業務遂行契約の内容を組合側に説明しなかったとしても、そのことによって左右されるものではない。そして、前記休業を命じた期間中飛行便がほとんど大阪及び沖縄を経由しなくなったため、上告会社は管理職でない被上告人らの就労を必要としなくなったというのであるから、その間被上告人らが労働をすることは社会観念上無価値となったといわなければならない。そうすると、本件ストライキの結果上告会社が被上告人らに命じた休業は、上告会社側に起因する経営、管理上の障害によるものということはできないから、上告会社の責に帰すべき事由によるものということはできず、被上告人らは右休業につき上告会社に対し休業手当を請求することはできない。 |