全 情 報

ID番号 03095
事件名 懲戒処分無効確認等請求事件
いわゆる事件名 電々公社事件
争点
事案概要  勤務割において一名のみの日勤勤務にあたっていた日に年次有給休暇の時季指定をした電々公社職員に対し、所属長が同人の日頃の言動から年休をとって成田空港反対の現地集会に参加するものと推測して事業運営上支障が出ることを理由に時季変更権を行使したところ、職員が当日欠勤したため戒告処分および賃金カットを行ったケースで、職員が時季変更権行使の効力を争った事例。
参照法条 労働基準法39条4項(旧3項)
体系項目 年休(民事) / 時季指定権
年休(民事) / 時季変更権
裁判年月日 1987年9月22日
裁判所名 最高三小
裁判形式 判決
事件番号 昭和60年 (オ) 989 
裁判結果 一部破棄(差戻・自判)
出典 時報1264号131頁/タイムズ660号78頁/労働判例503号6頁
審級関係 控訴審/01428/仙台高秋田支/昭60. 6.17/昭和58年(ネ)77号
評釈論文 秋山昭八・教育委員会月報454号4~11頁1988年6月/秋田成就・民商法雑誌99巻1号130~134頁1988年10月/石橋洋・昭和62年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊910〕212~214頁1988年6月/藤本茂・労働法律旬報1191号32~43頁1988年5月10日/林和彦・昭和63年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊706〕366~367頁1989年10月
判決理由 〔年休-時季指定権〕
〔年休-時季変更権〕
 年次有給休暇の権利(以下、「年次休暇権」という。)は、労働基準法(以下「労基法」という。)三九条一、二項の要件の充足により法律上当然に生じ、労働者がその有する年次休暇の日数の範囲内で始期と終期を特定して休暇の時季指定をしたときは、使用者が適法な時季変更権を行使しない限り、右の指定によって、年次休暇が成立して当該労働日における就労義務が消滅するのであって、そこには、使用者の年次休暇の承認なるものを観念する余地はない(最高裁昭和四一年(オ)第八四八号同四八年三月二日第二小法廷判決・民集二七巻二号一九一頁、同昭和四一年(オ)第一四二〇号同四八年三月二日第二小法廷判決・民集二七巻二号二一〇頁参照)。この意味において、労働者の年次休暇の時季指定に対応する使用者の義務の内容は、労働者がその権利としての休暇を享受することを妨げてはならないという不作為を基本とするものにほかならないのではあるが、そうであるからといって、労働者の年次休暇の時季指定に対して使用者がなんら配慮をすることを要しないということにはならず、年次休暇権は労基法が労働者に特に認めた権利であり、その実効を確保するために附加金及び刑事罰の制度が設けられていること(同法一一四条、一一九条一号)、及び休暇の時季の選択権が第一次的に労働者に与えられていることにかんがみると、同法の趣旨は、使用者に対し、できる限り労働者が指定した時季に休暇を取ることができるように、状況に応じた配慮をすることを要請しているものとみることができ、そのような配慮をせずに時季変更権を行使することは、右法の趣旨に反するものといわなければならない。そして、勤務割を定めあるいは変更するについての使用者の権限といえども、労基法に基づく年次休暇権の行使の前には、結果として制約を受けることになる場合があるのは当然のことであって、勤務割によってあらかじめ定められていた勤務予定日につき休暇の時季指定がされた場合であってもなお、使用者は、労働者が休暇を取ることができるように状況に応じた配慮をすることが要請されるという点においては、異なるところはなく、そのために必要とされる代替勤務者の確保、勤務割の変更が可能な状況にあるにもかかわらず、その配慮をしなかったとするならば、そのことは、時季変更権行使の要件の存否の判断に当たって考慮されなければならない。
 すなわち、労基法三九条三項ただし書にいう「事業の正常な運営を妨げる場合」か否かの判断に当たって、代替勤務者確保の難易は、判断の一要素となるというべきであるが、勤務割による勤務体制がとられている事業場においても、使用者としての通常の配慮をすれば、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能であると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしなかった結果、代替勤務者が配置されなかったときは、必要配置人員を欠くことをもって事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできないと解するのが相当である。そして、年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであって、それをどのように利用するかは使用者の干渉を許さない労働者の自由であるというべきであるから(前記各最高裁判決参照)、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが可能な状況にあるにもかかわらず、休暇の利用目的のいかんによってそのための配慮をせずに時季変更権を行使するということは、利用目的を考慮して年次休暇を与えないというに等しく、許されないものであり、右時季変更権の行使は、結局、事業の正常な運営を妨げる場合に当たらないものとして、無効といわなければならない。