全 情 報

ID番号 03100
事件名 地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 池貝鉄工所事件
争点
事案概要  経営の建て直しのため希望退職を募ったところ募集人員に達しなかったため不足人員を一定の基準を設けて整理解雇したケースで被解雇者が解雇を無効として地位保全・賃金仮払を求めた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
裁判年月日 1987年10月15日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (ヨ) 827 
裁判結果 一部認容
出典 時報1266号122頁/労働判例506号44頁
審級関係
評釈論文 岡田尚・労働法律旬報1186号31~39頁1988年2月25日
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 本件解雇が右就業規則にいう「やむを得ない事業上の都合による」ものに該当するか否は、使用者側及び労働者側の具体的実情を総合して判断すべきであるが、我国においては終身雇用制が原則的な労働関係であって、労働者は定年に達するまでの永続的な雇用関係を前提として生活設計をしているのが通例であるところ、いわゆる整理解雇はもっぱら使用者側の経営維持の必要のため、労働者を一方的に解雇し、労働者の生活手段を奪う結果となるものであるから、「やむを得ない事業上の都合による」解雇といい得るためには次の諸事情が存在することが必要である。即ち第一に企業が客観的に高度の経営危機にあり、解雇による人員削減が必要やむを得ないこと(人員整理の必要性)、第二に解雇を回避するための具体的な措置を講ずる努力が十分になされたこと(解雇回避努力)、第三に、解雇の基準及びその適用(被解雇者の選定)が合理的であること(人選の合理性)、第四に人員整理の必要性と内容について労働者に対し誠実に説明を行い、かつ十分に協議して納得を得るよう努力を尽くしたこと(労働者に対する説明協議)、以上の諸事情が存在しなければ、「やむを得ない事業上の都合による」場合とはいえないのであって、かかる事情の存在しない解雇は無効であるといわなければならない。
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
 会社は昭和五八年六月八日指名解雇の実施を決定するとともに、指名解雇基準として左記の六項目を設定したこと、【1】 高齡者【2】 業務に熱心でない者【3】 能力の劣る者【4】 職場規律を遵守しない者【5】 病弱者【6】 退社しても生活に窮しない者
(中略)
 基準【1】について。年功序列型の賃金体系のもとでは、高齡者ほど高賃金を得ているわけであるが、今日のように技術革新の激しい時代でなければ、高齡者は長年の経験の蓄積によって、技術的にも若年者よりも優れ、会社に対する貢献度も高かったから高賃金を得ることの経済的合理性があったであろうが、技術革新の激しい今日では長年の経験の蓄積が必ずしも高度の技術水準を意味するものではなくなってきていて、高齡者の高賃金は必ずしも会社に対する貢献度に比例しているとはいい難い事態となっている上に、五五歳以上の世代をみると一般的には子弟の養育も終り、三〇歳代、四〇歳代の世代に比すれば、生活に余裕があり、失職による打撃は他の世代よりはより少ないということができるので、基準【1】には一応の合理性があり、基準としての明確性に欠けるところはないということができる。
 しかし、《証拠略》によれば、五五歳以上の者が全て勧奨退職の対象となったわけでもなく、また、五五歳以上の者で勧奨退職の対象となり、これを拒否した者が全て指名解雇されたわけでもないのであって、本件指名解雇後も五五歳以上の者が十数名会社に残留していることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
 右の事実から推測すれば、会社は基準【1】を単に機械的に運用しているものではないことは明らかであり、右基準を運用するに当たり、業務その他の必要性から該当者を除外すること、あるいは当該労働者の個人的な事情、特に生活状況を考慮して対象者から除外することも、当然許されることである。
 しかし、一方で右のように弾力的な運用をしながら、不当労働行為等の意思の下に特定者についてのみ機械的に右基準を運用することは許されないのであって、かかる場合には、指名解雇は違法といわざるを得ない。
 基準【2】ないし【6】について。基準【2】ないし【5】は当該労働者の勤務成績、会社に対する貢献度を基準とし、その勤務成績の悪い者、会社に対する貢献度の低い者を指名解雇しようとするものであり、基準自体には一応の合理性があるということができる。また基準【6】も解雇によって打撃を受けることの少ない労働者を指名解雇しようとするものであるから、同様に一応の合理性があるということができる。
 しかし、右の基準自体は極めて抽象的であって、右基準のみでは、右基準に該当するか否かの判断が評定者の主観に左右され、客観性を保持し得ない虞れが多分にあるといえる。したがって、右基準を運用するにはより詳細な運用基準、例えば評価対象期間、評価項目、評価方法等が設定され、これに従って評価されるべきであり、このような合理的評価をしたものと認められず、人選に、合理性のない場合には、指名解雇は権利濫用であって無効といわざるを得ない。