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ID番号 03115
事件名 損害賠償請求上告事件
いわゆる事件名 川義事件
争点
事案概要  宿直勤務中の新入社員が、窃盗目的で来訪した元同僚に殺害された場合につき、会社に盗賊防止等に関する安全配慮義務違反があるとして、損害賠償請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1984年4月10日
裁判所名 最高三小
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (オ) 152 
裁判結果 棄却
出典 民集38巻6号557頁/時報1116号33頁/タイムズ526号117頁/金融商事706号40頁/労働判例429号12頁/労経速報1189号8頁/裁判所時報891号1頁/裁判集民141号537頁
審級関係 控訴審/名古屋高/昭57.10.27/昭和56年(ネ)445号
評釈論文 塩崎勤・ジュリスト820号71頁/下井隆史・季刊実務民事法8号208頁/加藤峰夫・日本労働法学会誌65号120頁/山本隆司・民商法雑誌93巻5号736頁/新美育文・昭和59年度重要判例解説〔ジュリスト838号〕77頁/林弘子・季刊労働法142号62頁/和田肇・ジュリスト852号224頁
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 二 ところで、雇傭契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場合(ママ)に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負っているものと解するのが相当である。もとより、使用者の右の安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なるべきものであることはいうまでもないが、これを本件の場合に即してみれば、上告会社は、A一人に対し昭和五三年八月一三日午前九時から二四時間の宿直勤務を命じ、宿直勤務の場所を本件社屋内、就寝場所を同社屋一階商品陳列場と指示したのであるから、宿直勤務の場所である本件社屋内に、宿直勤務中に盗賊等が容易に侵入できないような物的設備を施し、かつ、万一盗賊が侵入した場合は盗賊から加えられるかも知れない危害を免れることができるような物的施設を設けるとともに、これら物的施設等を十分に整備することが困難であるときは、宿直員を増員するとか宿直員に対する安全教育を十分に行うなどし、もって右物的施設等と相まって労働者たるAの生命、身体等に危険が及ばないように配慮する義務があったものと解すべきである。
 そこで、以上の見地に立って本件をみるに、前記の事実関係からみれば、上告会社の本件社屋には、昼夜高価な商品が多数かつ開放的に陳列、保管されていて、休日又は夜間には盗賊が侵入するおそれがあったのみならず、当時、上告会社では現に商品の紛失事故や盗難が発生したり、不審な電話がしばしばかかってきていたというのであり、しかも侵入した盗賊が宿直員に発見されたような場合には宿直員に危害を加えることも十分予見することができたにもかかわらず、上告会社では、盗賊侵入防止のためののぞき窓、インターホン、防犯チェーン等の物的設備や侵入した盗賊から危害を免れるために役立つ防犯ベル等の物的設備を施さず、また、盗難等の危険を考慮して休日又は夜間の宿直員を新入社員一人としないで適宜増員するとか宿直員に対し十分な安全教育を施すなどの措置を講じていなかったというのであるから、上告会社には、Aに対する前記の安全配慮義務の不履行があったものといわなければならない。そして、前記の事実からすると、上告会社において前記のような安全配慮義務を履行しておれば、本件のようなAの殺害という事故の発生を未然に防止しえたというべきであるから、右事故は、上告会社の右安全配慮義務の不履行によって発生したものということができ、上告会社は、右事故によって被害を被った者に対しその損害を賠償すべき義務があるものといわざるをえない。
 三 してみれば、右と同趣旨の見解のもとに、本件において上告会社に安全配慮義務不履行に基づく損害賠償責任を肯定した原審の判断は、正当として是認することができ、原審の右判断に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、違憲をいう点を含め、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定にそわない事実若しくは独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。