全 情 報

ID番号 03122
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 道園会事件
争点
事案概要  病院の寄宿舎で就寝中の看護婦が寄宿舎の火元責任者の失火によって焼死した事故につき、使用者である病院に安全配慮義務違反があるとして、損害賠償請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1984年6月26日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和57年 (ワ) 12418 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 時報1133号84頁/タイムズ537号155頁/労働判例443号71頁/労経速報1224号20頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 使用者は労働契約に基づき労働者から労務の提供を受けるために提供した場所、施設の設置管理に当たり、労働者の生命及び健康を危険から保護するよう配慮すべきいわゆる安全配慮義務を負っており、右は労働契約に付随する信義則上の義務である。これを本件についてみるに、前記認定の事実関係によれば、被告は本件宿舎をA病院の霊安室として利用するほか、同病院で働く事務員及び看護婦の宿舎として設置管理しているものであることが明らかであるが、医師・看護婦等病院に勤務して医療に直接従事する者の労働が、その職務の性質上、しばしば深夜ないし早朝にまでわたることが避けられないこと、及び緊急時には、勤務時間外においても仕事に従事することを余儀なくされざるを得ないことは今更いうまでもないところであり、特に病院においては、災害発生時等不測の事態が発生した際の入院患者保護のため、物的、人的両面からする防災設備の完備は、病院事業の経営上不可欠である(医療法二〇条ないし二四条、消防法八条、八条の三、一七条、建築基準法二条、三五条参照)といわなければならない。そして前記のとおり、同宿舎の居住者は、病院内に緊急事態が発生した場合は本部に集合して防災活動に従事することとされているとともにA病院自衛消防隊(夜間)の救出救護班、消火班、防護安全係として重要な役割を担うことが予定されているのである(ところが《証拠略》によれば、A病院においては、消火班は寄宿舎居住者と夜警をもって組織されるべきであるのに、本件事故当時夜警は特に配備されていなかったことが認められる(右認定に反する証拠はない。)から、結局同病院での夜間の火災に対する消火活動は、寄宿舎居住者にのみ期待されていたことになる。)から、本件宿舎は、単に看護婦に対する便宜供与の目的で設置されただけのものではなく、被告の事業の本質と密接かつ有機的に関連し、看護婦らからの労務の提供及び被告の受領を容易ならしめるための施設としてすなわち被告の行う病院事業経営のための必要不可欠な設備として、設置、管理されていたものというべきである。そうである以上、被告がその被用者たる看護婦である本件宿舎の居住者に対し、本件宿舎の設置管理に関して前記安全配慮義務を全うすべきものであることは極めて当然のことといわなければならない。
(中略)
 前記認定のとおり初期消火には非常に重要と思われる消火栓は、人の居住する老朽木造建物である本件宿舎に設置されていないばかりか、本館に設置された消火栓も、右自動火災通報装置と消火栓の起動装置との連動という重要な点について度々欠陥が指摘されながら、何らの対策を講ぜず、そのため本件火災の際においてもこれが何ら有効に機能しなかったものとみられること、また、消火器についても数は少なく、更に度々は再充填の指示がなされていることからすれば、被告は、一応の消火設備は備えていたものといえなくはないにもせよ、その日常の管理においては重大な手落ちがあり、更に前記認定の事実関係に照らせば、訴外B、同Cが、その出火に気づいた初期の段階に、備付けの消火器と設置に係る消火栓を使用した有効な初期消火を行っていたならば、火災は速かに鎮火して亡Dは本件事故により焼死するに至らなかったものと推認されるから、右手落ちは、訴外B、同Cらの本件出火に対する不適切な対応と相まって、本件事故の原因をなしているものであり、両者の間には、法律上のいわゆる相当因果関係が存するものというべく、右の落度の存することにおいて、被告には安全配慮義務違反があったといわなければならない。