ID番号 | : | 03128 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 日本電工事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | マンガン鉄等の製造に従事していた労働者のじん肺罹患につき、適切な防じんマスクの支給等を怠ったことに原因があり、安全配慮義務違反による損害賠償請求を認容した事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法415条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 |
裁判年月日 | : | 1984年7月19日 |
裁判所名 | : | 福島地郡山支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和55年 (ワ) 144 |
裁判結果 | : | 一部認容(控訴) |
出典 | : | 時報1135号16頁/タイムズ531号106頁/労働判例440号99頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 外井浩志・労働法令通信38巻20号16頁/岩村正彦・ジュリスト825号51頁 |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕 一 被告の安全保護義務 1 雇庸契約のもとにおいては、通常の場合、労働者は使用者の指定した労務給付場所に配置され、使用者から提供された設備、機械、器具等を用いて労務の給付を行うものであるから、雇庸契約に含まれる使用者の義務は、単に報酬の支払に尽きるものではなく、信義則上、右提供にかかる諸施設から生ずる危険が労働者に及ばないよう労働者の安全を保護する義務も含まれているものと解するのが相当である。 (中略) (一) 被告は、防じん措置として、【1】珪石の運搬・洗浄作業について、第二工場が建設される昭和三二年以前においては、入荷した珪石の貯鉱場所を予め特定しておいて、作業員がトラックから珪石を卸す際作業員の立入を禁止したり、洗浄場建屋内へのトラックの立入を禁止したり、【2】 マンガン鉱石の計量作業について、貯蔵ビン中の原料を常に湿潤な状態に維持して粉じんの発生を抑えたり、さらには計量工程を密閉化したり、【3】 電炉の下回り作業について、とりわけ発じんの多かったマンガン鉄の場合には、タツプ口付近に二階の煙突に直結する吸気ダクトを設けたり、発じんの比較的少なかった珪素鉄ないし金属珪素の電炉においても、湯出し中は原則としてタツプ口付近への立入を禁止したり、【4】 研掃作業について、防じんのため必要にして十分な防じん面への送気量を確保するための措置を講じたり、サンドブラストでは郡山工場での各作業中とりわけ発じんが多く、サンドブラスト従事者には重症じん肺患者が多いとされていることに鑑み、同一従業員を短期間で他の作業へ転換したり、【5】 試料調整作業について、クラッシャーを密閉化したり、同所排気装置を設けたり等し、発じんそのものの抑制、発じん場所への従業員の立ち入り禁止、発じん個所の密閉化、粉じんの排出、あるいは適切な労務管理等を図り、もって従業員を粉じんの曝露から防止すべきであったのに、これを怠ったものといわなければならない。 (二) 被告は、創業当初既に防じんマスクの規格が定められており(昭和二五年労働省告示第一九号)作業員に適切な防じんマスクを支給すべきであったのに、その支給開始が遅れ、その後支給された防じんマスクは作業場によっては必ずしも有効でなかったにもかかわらず、より上級のマスクを導入する努力も十分でなかったばかりか、防じんマスクの規格が改訂された後も長期にわたって右防じんマスクを支給し続け、更には、特級又は一級のマスクを使用すべきであるとされている鉱石破砕作業を伴う作業場においても昭和四九年当時二級マスク(サカヰ一〇〇九型)を支給していたものであり、作業員らが作業のし易さを優先させ、スポンジマスクや二級マスクの方を好み、吸気抵抗の大きい上級マスクに馴染みにくかったことを考慮してもなお被告の防じんマスクに関する対応は立ち遅れていたといわざるを得ず、結局適切な防じんマスクを支給することを怠ったものといわなければならない。 (三) 被告は、従業員に対し、種々の機会を通じて防じんマスクの着用を呼びかけ、その指導に努力してきたことはうかがわれるが、しかしその指導の実効性を担保すべきじん肺教育については、昭和三五年及び同三六年に初めてまとまった教育がなされたとはいうものの、それが必ずしも各従業員にじん肺に関する十分な理解をもたらさず、従って防じんマスク着用の必要性を各人に自覚させ、積極的に着用する姿勢を育てるまでに至らず、現に作業現場ではマスクの着用状況が極めて不充分であったうえ、伍長による指導監督体制も十分な機能を果たしていなかったにもかかわらず、既に十分な理解に達したと速断して、その後は右のような教育をくり返すことなく推移したものであって、被告のじん肺教育は不十分であったといわざるを得ないのであり、また原告X、亡Aにつきじん肺罹患の事実が判明したのちも引き続き粉じんにさらされる危険性のある作業に従事させるなど従業員の健康管理面での手落ちもあったことも明らかである。 三 結論 以上によれば、被告は安全保護義務に違反し、その結果原告らをじん肺に罹患させたことが明らかであるから、原告らに対し、雇庸契約上の債務不履行として、これによって生じた損害を賠償すべき責任があるというべきである。 |