ID番号 | : | 03137 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 戸塚郵便局事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 郵便職員に対する起訴休職処分後、当該起訴事件が第一審で無罪とされたが、なお右休職処分を取消さないことに違法はないとした事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 国家公務員法79条2号 国家公務員法80条 |
体系項目 | : | 休職 / 起訴休職 / 休職制度の合理性 休職 / 起訴休職 / 無罪と休職処分との関係 |
裁判年月日 | : | 1984年10月25日 |
裁判所名 | : | 横浜地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和54年 (ワ) 1834 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | タイムズ549号263頁/労働判例443号60頁/訟務月報31巻6号1301頁 |
審級関係 | : | 控訴審/03788/東京高/昭61.10.28/昭和59年(ネ)3057号 |
評釈論文 | : | 小俣芳久・地方公務員月報265号49頁/新谷真人・季刊労働法135号195頁 |
判決理由 | : | 〔休職-起訴休職-休職制度の合理性〕 (二) 而して刑事事件に関し起訴された場合の休職の期間については、国家公務員法八〇条二項は「その事件が裁判所に係属する間とする。」と定め、〈証拠〉によれば、郵政省と全逓信労働組合及び全日本郵政労働組合との間において昭和四六年一二月一六日付で締結された「休職の取扱いに関する協約」三条三項でも同様の取り決めがなされていることが認められる。したがって原告Xに対する起訴休職処分は、第一審無罪判決があってもなお事件が上級審に係属する限りは当然失効しないしは取り消さるべきものとなるものではないが、これは同時に、第一審無罪判決があっても休職処分の継続の当否につき検討を加えることなく漫然と放置してよいことを意味するものでないことは、前示の起訴休職制度の趣旨よりして当然のことといわなければならない。この点につき前示通達では、「起訴による休職者について、任命権者が、公務上復職せしめる必要があると認める場合は、当該事案が刑事裁判に係属中においても復職を命ずることができる。」としている(七条二項(2))ので、如何にも復職の要件を「公務上復職せしめる必要があると認める場合」に限定しているように受けとれるのである。しかしながら第一審無罪判決があった場合に当該職員を復職せしめる(すなわち休職処分を撤回する)か否かは単に公務上復職せしめる必要性が有るか無いかということのみによって決すべきものではなく、無罪判決の理由を斟酌し前示の起訴休職制度の趣旨よりみてなお当該職員に対する休職処分を継続する必要があるか否かを検討して決すべきものといわなければならない。 〔休職-起訴休職-無罪と休職処分との関係〕 (三) 〈証拠〉によると、第一審無罪判決の理由は、原告らのビラ貼り、落書きなどの行為が建物の形状を物理的に損傷し或はその効用を滅損して建物の本来の機能に沿う使用、利用を阻害した事実及びその美観を著しく滅損した事実はないから建造物損壊罪には該当しない、とするものであって、原告らのビラ貼り等の行為についてはほぼ公訴事実と同一の事実を認定していることが認められる。このように公訴事実そのものは認定されながら法律評価ないしは解釈において当該構成要件該当性が否定された場合で、かつ、検察官がこれを不服として控訴した場合においては、当該職員が客観性のある公の嫌疑を受けているとの社会的評価には、起訴時との間にさしたる変化はないものとみられるし、上級審において第一審判決の法律解釈が覆され有罪となる蓋然性も存するのである。それ故に、本件においては、以上認定の事実関係よりみれば、原告Xをして第一審無罪判決後直ちに従前の職場に戻すときは、職場規律ないし秩序の維持に悪影響を及ぼす可能性の存することは否定できないばかりでなく、職員の職務遂行に対する国民の信頼ひいては官職に対する信用の保持、公務の正常な運営の確保に支障を生じるおそれがなお存在するものと認めることができる。証人Aの証言によれば戸塚郵便局長は右の点に考慮を払い上級官庁である関東郵政局長の見解をも参考にしたうえ原告Xに対する本件処分を継続することに決したことが認められるから、同局長が右処分を取り消さなかったことには何らの違法はない。 |