ID番号 | : | 03138 |
事件名 | : | 雇用契約上の権利確認等請求事件/損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 紅屋商事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 会社を代表する権限のない支店長が退職願を受領した場合につき、会社が承諾する前に右退職願を撤回したが信義則違反とはいえないとして、合意解約の成立を否定した事例。 組合役員等に対する不正行為等を理由とする懲戒解雇が無効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為 退職 / 合意解約 |
裁判年月日 | : | 1984年11月1日 |
裁判所名 | : | 青森地弘前支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和50年 (ワ) 101 昭和51年 (ワ) 187 |
裁判結果 | : | 一部認容 |
出典 | : | 労働判例447号51頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕 (5) 以上の事実によれば、原告X1が豚油脂代金七二〇〇円を横領したとはいえず、また前記A名義の四〇八〇円の預金も原告X1においてなしたものではなく、同年一〇月一六日同原告が右預金から二〇〇〇円を引き出した当時においても、右預金が豚油脂代金を預金したものであるとの認識があったと認めることもできないのであって、右預金引出し行為を以て横領行為であるということもまたできない。他に被告主張の解雇事由の存在を認めるに足りる証拠はない。 〔退職-合意解約〕 二 ところで、成立に争いのない(証拠略)によれば、被告の就業規則には退職願についての定めがあり、その一一条二項に「前項の規定により退職願を提出した者は会社の承認がある迄従前の業務に服さなければならない」旨の規定があることが認められる。一般に被用者のなす退職願は、使用者との間の雇用契約を合意解約したい旨の使用者に対する申込みにあたる意思表示であると解することができ、右申込みに対する使用者の承諾の意思表示がなされたときに右合意解約の効力は生ずるものと解され、右被告の就業規則一一条二項は、このことを明文化したものと認められる。そして、継続的契約という雇用契約の性質並びに被用者の退職の自由の確保という要請に照らして考えると、使用者の方は、合理的な理由もなくして被用者の退職の申込みに対する承諾を拒否しえないものの、被用者の方は、合意解約の効力が生ずるまでの間、使用者に不測の損害を与える等信義に反すると認められるような特段の事情のない限り、退職願即ち合意解約の申込みを自由に撤回して従前通りの雇用契約を存続させることができるものと解するのが相当である。 三 そこで、原告X2の退職願撤回までの間に被告の退職を承諾する旨の意思表示が存したか否かについて検討するに、被告は、同五一年三月一四日、右原告X2の退職願を即日承認した旨主張するが、被告代表者本人尋問の結果(第三回、前記措信しない部分を除く)によれば、被告代表者は当日不在であって、右原告X2の退職の件を後日青森店のB店長から報告を受けて知ったことが認められるものの、被告において、前記認定の就業規則一一条に定めるところの原告X2の退職願を承認するための組織上一定の手続を履践したり、原告X2に対し、退職願を承認する旨の通知をしたりした形跡は本件全証拠によってもこれを窺うことができない。もっとも被告は、青森店長であるBの退職願受理によって、被告の退職承諾の意思表示がなされた旨主張するものと解されるが、例え、店長の職にあるものであっても同人に被告を代表する権限はないのであるから、同人の意思のみによって被告の意思が形成されるものと解することはできず、右B店長の退職願受理は原告X2の退職願即ち合意解約の申込みの意思表示を単に受領したことを意味するにとどまるものと解するのが相当である。 右事実及び前記一の争いのない事実によれば、原告X2の退職願は被告の承諾の意思表示がなされる前に撤回されたものであると認められる。そして、原告X2の右撤回が信義に反すると認められる特段の事情の存在について何らの主張立証のない本件においては、右退職願の撤回は有効であるものというべきである。なお、成立に争いのない(証拠略)によれば、原告X2は、右退職願を提出した同年三月一四日に退職金八万三五〇〇円を受領していることが認められるのであるが、他方成立に争いのない(証拠略)によれば、原告X2は、前記認定の退職願の撤回をしたときに、被告に対し、右退職金八万三五〇〇円も現金書留で郵送して返還し、右郵便は同月一九日被告に到着していることが認められるから、右退職金を一旦受領したことを以て、その後の退職願の撤回が信義に反するということもできない。 |