ID番号 | : | 03139 |
事件名 | : | 違約金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 総合行政調査会地方人事調査所事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 戦没者の各種名鑑等の予約出版を業とする会社の外務調査員につき、実質的に労働契約に近似する契約関係であり、競業避止義務違反等の場合の違約金の定めが労基法一六条の趣旨になし無効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法9条 労働基準法16条 民法623条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 委任・請負と労働契約 労働契約(民事) / 賠償予定 |
裁判年月日 | : | 1984年11月28日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和57年 (ワ) 9916 昭和57年 (ワ) 10967 昭和57年 (ワ) 11677 昭和57年 (ワ) 12536 |
裁判結果 | : | 棄却(確定) |
出典 | : | 時報1157号129頁/労働判例459号75頁/労経速報1243号9頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則-労働者-委任・請負と労働契約〕 2 右認定の事実によれば、外務調査員は、支部長を通じて原告の指揮、監督のもとに取材、受注業務に従事し、業務に従事する時間、場所、期間等についてもすべて支部長の指示に従って集団行動をとっているものであって、業務を遂行するについて自主性、独立性は全くないというべきである。 すなわち、被告ら外務調査員は原告に従属する関係にあることは明らかであって、原告と被告らとの間の法律関係は、少なくとも実質的に労働契約に近似する契約関係であるということができる。 〔労働契約-賠償予定〕 3 ところで、労働基準法一六条は、使用者に、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をすることを禁止しているが、その理由は、このような制度は、ともすると労働の強制にわたり、あるいは労働者の自由意思を不当に拘束し、労働者を使用者に隷属させることとなるので、こうした違約金制度や損害賠償額予定の制度を廃止し、労働者が違約金又は賠償予定額を支払わされることをおそれて心ならずも労働関係の継続を強いられること等を防止しようとするにあるものと解される。 本件契約における義務違反の場合の違約金を定める約定は、いずれも、契約の不履行についての違約金を定めるものないし損害賠償額を予定する契約にほかならないが、本件契約は少なくとも労働契約に近い実質を有するものであり、原告の指揮、命令に全面的に服し、原告に従属している関係にある被告ら外務調査員が、右違約金制度によってその自由意思を抑圧されるおそれがあり、また、契約終了後の競業避止義務を定める特約のために、違約金の負担をおそれて原告の同業者への転職を差し控え、原告との契約関係の継続を強いられる可能性もあって、人格尊重の見地からは問題があることは、純然たる労働者の場合と何ら変わるところはない。 他方、本件契約において違約金制度を設けなければならない合理的必要性は見出し難い。競業避止義務や転職勧誘避止義務を負わせることには一定の限度において合理性が認められるとしても(もっとも、原告に業務上の秘密といいうるようなものが存在するか疑問であることは後に認定するところであり、しかも業務上、経営上の機密を知る立場にはない被告らのような外務調査員について、秘密の漏洩を防止する目的で競業を禁止し、あるいは同業者への転職を防止することに合理性があるか疑問である。)、右義務に違反した場合には原告としてはそれによる実損害を賠償請求すれば足りるのであって、実損害の額にかかわりなく予め違約金を定めておく必要性はないと考えられる。 そうしてみると、本件契約における業務違反の場合の違約金についての約定は、少なくとも労働基準法一六条の趣旨に照らし、無効であるといわざるをえない。 |