全 情 報

ID番号 03141
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 名古屋市水道局事件
争点
事案概要  水道局技師が上下水道配管幹線のマンホール内で酸素欠乏症のため死亡した事故につき、市に安全配慮義務違反があるとして損害賠償請求を認容した事例。
参照法条 労働基準法2章
民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1984年12月26日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和56年 (ワ) 3812 
裁判結果 一部認容(確定)
出典 時報1141号108頁/タイムズ550号201頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 しかして、いずれも被告の履行補助者である被告水道局西配水事務所々長は監督者として、同漏水防止係長は直接の上司として、通常マンホールの中に立入ることのない栓弁班の職員であっても、その業務遂行に関連して、少数とはいえ酸欠の危険性のあるマンホールの中に立入る可能性があり、しかもその際、右のような緊急事態の発生することも予測されるのであるから、日頃から所属職員に対し、マンホール内の酸欠の危険性を周知徹底させ、酸欠防止のための装備等なくしてマンホール内に立入ることを固く禁止し、場合によっては緊急事態の発生に対処するため、生命綱、防毒マスク等を栓弁班の車両にも備えておくなどして、右職員らの身体、生命に対する安全を配慮すべき義務があるというべきである。
 しかるに被告水道局西配水事務所々長及び漏水防止係長らはこれまで上水道用マンホールに酸欠事故の発生したことがなかったことから、そのような緊急事態の発生することに思いを至すことなく、その結果、亡Aに対する右のような安全配慮義務を尽さなかったため、本件事故が発生するに至った。
 もっとも《証拠略》によれば被告水道局においては、その職員に対し酸欠事故防止のための講習を実施し、亡Aも一度これを受講していることが認められるけれども、先輩でしかも酸欠危険作業主任者の資格を有する所技師においてさえ、亡B業務技師らが本件マンホールの中へ入るのを一応止めはしたものの、それも酸欠の危険性を慮って制止したわけのものではなく、自らも酸欠死の危機に直面するが如き行動に出ているといった状況の下で、実務経験の浅い亡Aに対し、酸欠の危険性を予測しての万全の行動を期待することは酷というべきであるから、右講習の実施によって、右配水事務所々長及び漏水防止係長らが安全配慮の義務を尽したものとは到底認め難く、ひいては被告の責任を免れさせることはできない。