全 情 報

ID番号 03143
事件名 未払賃金請求事件
いわゆる事件名 函館ドック事件
争点
事案概要  就業規則の終業時刻(午後四時)の規定にかかわらず、年末最終日は午後二時ないし二時一〇分に退場し、同時刻以降は割増賃金を支払う慣行の存在が認定されたが、その後の労使協定により右慣行は破棄されているとして、割増賃金請求が却けられた事例。
参照法条 労働基準法37条
民法90条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働慣行・労使慣行
賃金(民事) / 割増賃金 / 法内残業手当
裁判年月日 1984年12月27日
裁判所名 函館地
裁判形式 判決
事件番号 昭和57年 (ワ) 290 
裁判結果 棄却
出典 労働判例449号70頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働慣行〕
 二 以上の事実によれば、A造船所及びB製作所においては、年末最終労働日の取扱いについて、就業規則の終業午後四時との規定にもかかわらず、従業員に有利な取扱いとして、従業員は午後二時一〇分に退場し、午後二時以降勤務した者に対しては本来の賃金に加えて時間給が支給されるという取扱いがなされるようになり、昭和四四年からは、午後二時退場となり、また、右時間給も時間割賃金となるなどの従業員に有利な変更はあったが、昭和五〇年に至るまで二〇数年にわたり右取扱いが反覆、継続されてきた事実があるうえ、その間昭和三八年に定時まで勤務してほしい旨の被告からの申入れがあったほかは、この取扱いを廃止または不利に変更する旨の申入れもなく、原告らを含む従業員と被告は、この取扱いを当然のこととして行ってきたものであるから、これによる意思を有していたものと認められる。従って、少なくとも昭和五〇年当時には、右年末最終労働日の取扱いは、労使間における慣行として確立し、以後両者を拘束する内容となっていたものというべきである。
 ところで、被告は、年末最終労働日の午後二時一〇分または午後二時退場の取扱いは、被告がその裁量により毎年その都度通達によって指示して勤務を二時間免除してきたにすぎず、また、午後二時以降に勤務した者に時間割賃金を支給したのも衡平上の見地からとくに恩恵的措置として行ったものであって、右取扱いは当然の慣行とはいえない旨主張する。しかしながら、右取扱いが形式上は毎年総務部長等の通達による指示に基づいて行われていたとしても、そのことをもって慣行の存在を否定するものとはなしえないばかりか、かえって後記認定のとおり、被告は、労連及び別組合との時短交渉において、年末最終労働日及び出初めの日のような不完全就労日の存在を当然の前提とし、その廃止を企図してきたのであって、このことは、とりもなおさず、被告において年末最終労働日等の取扱いを確立された慣行として認識していたことを示すものであるから、この点に関する被告の主張は採用できない。
〔賃金-割増賃金-法内残業手当〕
 前記認定の時短交渉の経緯、とくに、1 被告は、労連及び別組合からの時短要求に対し、一日の労働時間を延長して休日増による時短に応ずるが、その際、年間総労働時間という総枠を設定するのみならず、従来の労働時間に関する制度を見直し、年末最終労働日等の不完全就労日を廃止するとともに、就業規律の基準を確立することに重点を置いていたものであるところ、労連及び別組合も被告の右基本方針を十分認識していたこと、2 被告は、右基本方針に基づき、時短交渉においては終始一貫して不完全就労日の廃止を求めてきたが、労連との交渉の過程で右方針を後退させざるをえなくなり、最終段階において、年間総労働時間を実質的に減らすなどの方法として一月五日を出初めの日の取扱いをするという妥協案を提示し、不完全就労日を残すことになったが、右時点においても、年末最終労働日は平常勤務日とする旨の認識であったこと、3 右のことから、被告は、最終回答書に一月五日については不完全就労日である出初めの日の取扱いをする旨明記しているのに対し、年末最終労働日の取扱いについては何らの記載をしていないのであり、他方、労連側は、一月五日の取扱いについて実質的に合意が成立した時点においても、また、最終回答書案を検討した段階においても、さらには団体交渉の席で正式な最終回答がなされた際にも年末最終労働日の取扱いについて質問したり確認を求めたことはなく、昭和五二年六月一四日、被告最終回答を異議なく受諾してその旨通知していること、4 右時短に関する合意において、被告と労連は年間所定労働日数を二七五日、年間総労働時間を一九九三時間四五分と協定しているのであるから、年間所定労働日(平常勤務日)における労働時間は、一日七時間一五分であることが明白であること、5 労連との交渉と並行して被告と時短交渉を行っていた別組合は労連に対するのと同一内容の被告最終回答を受諾したが、別組合は、年末最終労働日の退場時刻は午後四時一五分と変更されたものと認識し、その所属組合員は、これに従って就業していることを併せ考慮すると、労連及び被告間における本件時短に関する合意が最終的に成立した際、年末最終労働日の退場時刻を午後四時一五分と定めたものと認めるのが相当であるから、従来の年末最終労働日の取扱いについての労使慣行は合意によって破棄されたものと認められる。
 三 以上のとおりであるから、年末最終労働日の取扱いについての労使慣行がその後の労使間の合意によって破棄されたとする被告の主張は理由がある。