全 情 報

ID番号 03162
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 岩手県社会福祉事業団事件
争点
事案概要  業務委託(準委任)契約の名目による調理および洗濯業務を内容とする県の社会福祉施設管理人と契約が労働契約とされた事例。
 右契約を期間一年としながら長期間反覆継続した場合につき、雇止めの意思表示が実質上解雇権の濫用にあたり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法9条
労働基準法10条
労働基準法2章
民法1条3項
民法628条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 委任・請負と労働契約
解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 1983年6月29日
裁判所名 盛岡地
裁判形式 決定
事件番号 昭和58年 (ヨ) 12 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例418号68頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-委任・請負と労働契約〕
 6 これより先、債務者は、昭和五七年九月二八日、A株式会社との間に、債務者の委託管理にかかる六施設(B、Cを除く。)の調理業務を委託料年額六六三万円、月額一一〇万五〇〇〇円(いずれが正しいのか不明)で委託する旨の契約を締結した。右契約によれば、債務者は、委託後も右六施設において、債務者職員二、三名、臨時職員等一、二名により調理業務に協力するとされており、又、債務者とAは、右契約にあたり、Aが従業員として採用(継承)する個人業務委託者について四条件を保障する旨の覚書を取り交した。昭和五八年四月以降、債務者は、A及び株式会社Dとの間にB及びCにおける調理、洗濯等の業務委託契約を締結したが、同委託料は、債権者ら各自に対する昭和五七年度委託料月額八万七四〇〇円の合計を上回っている。ちなみに、債権者らに対する右委託料は、厚生省が社会福祉施設に配分する措置費の同職種人件費単価を下回る低額なものである。
〔労基法の基本原則-労働者-委任・請負と労働契約〕
 二 以上の事実関係に基づけば、債権者らと債務者との法律関係は、その形式こそ業務委託(準委任)契約関係とされているが、債権者らがいずれも債務者又は県派遣の職員の指揮の下に所定の時間、従属的に単純労務に服し、その対償として毎月定額の金員を受領してきたこと、該労務の提供につき債権者らに裁量の余地が全くなかったことからして、これが労働契約関係であることは明らかである。
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 そして、右の各労働契約は、一応期間を昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日までとする有期契約である(当初から期間の定めのない契約であったとかそれに転化したなどと認めるのは困難である。)が、元来債権者らの労務が、調理、洗濯という常時需要のあるものであり、実質的にみて、債務者の常勤職員たる調理員、用務員とその労務内容あるいは種類において何ら異なるところがなかったこと、債権者らと前記各施設長との昭和四七年の業務委託書による契約締結の当初において、該施設長に契約の当然更新、長期継続雇傭を期待させる言動があったこと、現に、右契約は、毎年形式的な契約書作成のほかは自動的に更新され、債権者らに対する使用者たる地位が昭和五一年に各施設長から債務者に承継された後においても、債権者らと債務者との各労働契約(以下、本件各労働契約という。)は、昭和五七年まで毎年自動的に更新を繰り返したこと、従って、債務者においても、民間委託の方針を採用するまでは、本件各労働契約が継続することを予定していたことに鑑みれば、本件各労働契約は、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存続していたものというべきであるから、これを解消する旨の債務者のいわゆる傭止め(以下、本件各傭止めという。)の意思表示は、実質上解雇の意思表示にあたると解するのが相当であり、本件各傭止めの効力の判断にあたっては、解雇に関する法理を類推すべきである(最高裁判所昭和四九年七月二二日判決、同判例集二八巻五号九二七頁参照)。
 そこで、本件各庸止めについてみるのに、その理由は、債権者らが民間委託の方針に従わないとの一事にあるに過ぎない。なるほど、民間委託については、個人業務委託方式では、当該個人の傷病等事故による業務の停滯(疎明資料によれば、債務者の委託管理にかかる施設において過去三件の事例が発生したことが窺われる。)が危惧され、かつ受託者の地位の解釈取扱に関し問題を内容していたところ、これらが解消されるという一面の合理性、必要性があり、また、債務者側に、民間委託にかかる会社(以下、民間会社という。)との間で、その採用(継承)する従業員(個人業務委託者)の労働条件について四条件を保障する旨の覚書を取り交すなどの配慮がみられ、かつ受託労との団体交渉などにおいて民間委託の方針を重ねて説明し、その協力方を要請してきた経緯がある。
 しかしながら、民間委託によれば、その反面、個人業務委託料と同額を給与として保障させる前提をとる以上、債権者らの雇傭を継続するより民間会社の純利益に相当する分だけかえって委託費の費用高を招く不合理があり、また、民間委託によらずに、臨時職員の増員など代行員の配置により事故発生の場合に備えるとともに、債権者らの地位を明確にすることも十分可能である。のみならず、民間委託とされた場合には、入札が原則であるから、債権者らが懸念するような業者の変更の可能性も一概に否定し去ることはできない。
 そして、それにも増して、債権者らには、県の臨時職員として採用以来本件各傭止めに至るまで、何らの仕事上の過誤は勿論、無断欠勤等責めらるべき事由がないこと、債務者の委託管理にかかるB、Cは、いずれも収容定員を有する公的社会福祉施設であって、営利法人と異なり、景気変動による人員整理の必要性はなく、収容人数により相応の労働量が固定化しており、民間委託をしても依然として債権者らの労働に匹敵する労働の需要があることなどに鑑みるとき、単に民間委託の方針に従わないとの一事をもってした本件各傭止めは、社会通念上相当として是認されないというべきであって、実質上解雇権の濫用にあたるので、無効であると解するのが相当である。