ID番号 | : | 03167 |
事件名 | : | 損害賠償請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 小西縫製工業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 年末休暇中の寮の火災により精神薄弱の従業員が焼死した場合につき、会社に安全配慮義務はなかったとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法96条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 寄宿舎・社宅(民事) / 寄宿舎・社宅の利用 / 寄宿舎生活の自由・自治・管理権 |
裁判年月日 | : | 1983年10月14日 |
裁判所名 | : | 大阪高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和58年 (ネ) 432 昭和58年 (ネ) 1040 |
裁判結果 | : | 控訴認容、附帯控訴棄却 |
出典 | : | 労働判例419号28頁 |
審級関係 | : | 一審/京都地/昭58. 1.31/昭和55年(ワ)1959号 |
評釈論文 | : | 保原喜志夫・ジュリスト849号113頁 |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕 〔寄宿舎・社宅-寄宿舎の利用-寄宿舎生活の自由・自治・管理権〕 1 一般的に、使用者は労働者に対し、労働契約又は雇傭契約に付随する信義則上の義務として、その生命、健康を危険から保護すべき義務があり、その具体的内容は当該契約における契約内容、労働者のおかれている具体的状況に応じて決定されるべきものであるところ、本件の如く、精神薄弱者が会社敷地内の寮に住込みで稼働する場合には、精神薄弱者は正常者に比較して判断力、注意力、行動力が劣るものであるから、会社施設の火災など不測の事態が発生したような場合、それが仮令休暇中当該寮から発生したものであっても、精神薄弱者の生命、身体を危険から保護するため、その精神薄弱の程度に応じた適切な方法手段によって安全な場所に避難させ、危難を回避することができるようにする安全配慮義務があるというべきである。 ところで、本件の事案は前記認定のとおり、精神薄弱者であるAが、火災報知機の警報機の作動と機を一にして寮から第二工場を通り第一工場まで出てきて、たまたま出社していたBに対し火事の発生を知らせ、その後一旦火災現場近くに戻ったものの、消火活動をしていたBから、未だ火勢が強くない段階で、火災の現場である第二工場から反対方向の出口を指さされ外に出るように指示され、一旦は外に出たものの、出火現場は反対方向の、Bの指示した出口よりさらに遠い第三工場に立戻り、同所で焼死したものである。しかも、Aは精神薄弱者ではあるが軽度であって、IQ六五ないし七〇であり、小学生三、四年程度の知能を有しており、五体健全であって避難に介護を要することなく避難能力を有していること、現に火災発生とともに第一工場まで出て来た後Bの指示に従って外に出ていること、他方Bは現に消火活動に従事しており、また当時工場にはBの外にはC専務しかおらず、まして初期消火の段階であって未だ火勢が弱く危険な状況ではなかったこと、そして精神薄弱者であるが故に予期しない行動に出るおそれのあることを予想することはできないこと、さらにはAが避難した後になお工場内にいた小学生四年生と一年生の子供が無事に避難していること、またAは一旦外に出たにもかかわらず再び工場内に立戻っているのであって、仮にBが現実にAを工場外に連れ出したとしても再び工場に立戻ることも考えられないではないことに照らせば、Bはたまたま休日に出勤してきた社員であって控訴会社の安全配慮義務についての履行補助者といえるかはさて置くとしても、Bには、消火活動を中止してAを外に連れ出す義務は存しないといわなければならない。またBは自身が工場外に退去した際にAが安全に避難したことを確認してはいないが、前記認定の如く、Aは未だ安全な時期に外に出たのであって、従業員や消防署員や警察官までもが丸一日かかって工場内を除きAを探していたことに照らせば、通常の注意義務をもってしてはAが工場内に立戻ることは予想し得ないことであるから、Bには、Aが再び工場内に立戻ることまで予測する義務はこれまた存しないといわなければならず、Aが既に安全に避難しているものと考えAの避難の確認をしなかったこともけだしやむを得ないことといわなければならない。 以上のとおり、仮にBには控訴会社の安全配慮義務についての履行補助者としての責任があるとしても、Bが前記認定の状況のもとにAに対してなした処置に義務違反はないから、他に控訴会社の債務不履行につき主張立証のない本件においては、控訴会社の安全配慮義務違反はないといわなければならない。 また、被控訴人らは控訴人の不法行為責任を追及するが、BにAを安全に保護すべき注意義務があるか否かはさて置くとしても、前記認定のとおり、Bの避難誘導に過失は存しないから、控訴会社にはBの使用者としての不法行為責任はない。 |