全 情 報

ID番号 03192
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 宮崎市消防隊員事件
争点
事案概要  消防署の特別救助隊員が消防救助技術指導大会の競技に参加するための訓練中に仮設塔から転落死亡した事故につき、遺族が地方公共団体を相手どって損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1982年3月30日
裁判所名 宮崎地
裁判形式 判決
事件番号 昭和53年 (ワ) 140 
裁判結果 一部認容(確定)
出典 時報1061号97頁/タイムズ464号76頁/労働判例384号28頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 地方公共団体は所属の地方公務員(以下、公務員という)に対し、地方公共団体が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負っているものである(最判昭五〇・二・二五民集二九巻二号一四三頁)。そして、この安全配慮義務は契約関係又はこれに準ずる法律関係の付随的義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるものであり、地方公共団体が不法行為規範のもとにおいて私人に対しその生命、健康等を保護すべき義務とは必ずしも一致せず、両者はその適用範囲が部分的に重なり合う交叉概念であって、それぞれの義務違反に基づく損害賠償請求権も請求権競合の関係にあると考える。
 そこで、まず、本件につき被告の安全配慮義務違反の存否につき検討する。
 安全配慮義務の具体的内容は、公務員の職種、地位及び安全配慮義務が問題となる具体的状況によって異なるべきものである。とくに消防職員などのように業務の性質上危難に立ち向いこれに身を曝さなければならない義務のある職員は、業務上右義務の現実の履行が求められる火災現場の消火活動(消防法六章)、人命救助など現在の危難に直面した場合において使用者である地方公共団体に自己の身を守るべき安全配慮義務を強く求めることはできない。しかし、これと異なり通常の火災予防業務(消防法第二章)、一般訓練、消防演習時(消防組織法一四条の四第二項、消防礼式基準二二五条三号)などのように前示危難の現場から遠ざかれば遠ざかる程安全配慮義務が強く要請されるのであって、要するに危難との距離と安全配慮義務の濃淡とが相関関係にあると考える。なお、危難に立ち向う職員が危難現場において臨機の行動をとりその職務を全とうできるようその使用者は、十分な安全配慮をなした訓練を常日頃実施すべき義務がある。被告は本件訓練につきいわゆる許された危険の法理により安全配慮義務が減免される旨を主張するが、「許された危険」とは人の生命、身体、財産などを侵害する危険と必然的に結びついているが、社会的に有益ないし必要な事業又は業務の実施を法が適法なものとして許容し、その許された危険行為が落度なく、ないし客観的に要請された注意義務が遵守されることが適法要件として要求される。したがって、「許された危険」の理論は過失一般についていわれるその違法性が客観的注意義務違反にかかっていることを示したものにほかならないのであって、この理論から直接安全配慮義務の減免をいう被告の主張は採用できない。