全 情 報

ID番号 03213
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 日本電信電話公社事件
争点
事案概要  国家公務員等退職手当法にもとづく退職手当受給権につき、死亡した者に遺族がいないときは受給権自体が発生しておらず、相続財産とはなりえないもので、死亡職員から遺贈を受けたとする死亡退職手当の支払請求において、この請求を棄却した事例。
参照法条 労働基準法89条1項3の2号
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 死亡退職金
裁判年月日 1981年2月19日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和54年 (ワ) 2381 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1084号14頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-死亡退職金〕
 1 退職手当法二条一項によれば、被告の職員が退職した場合には同法の規定する退職手当が支給され、死亡による退職の場合には、その遺族に退職手当が支給されることとなっていることが明らかである。そして、同法一一条一項は、退職手当を受ける遺族の範囲を同項一号ないし四号に定める者に限定しているばかりでなく、同条二項においてその受給順位を法定しており、しかも、右「遺族」の範囲及び順位等が被告主張のとおり民法の相続人の範囲及び順位と著しく異なる内容であることを考えると、退職手当法は、死亡した退職者の「遺族」に対する生活保障を主たる目的として右受給権者の範囲及び順位等を独自の立場から合目的的に定めたと解するのが相当であり、死亡による退職の場合、その受給権は、死亡者本人の権利として相続財産に属するものではなく、「遺族」がその固有の権利として同法に基づき直接に取得すると解するのが相当である(最高裁第一小法廷昭和五五年一一月二七日判決民集三四巻六号一三一頁参照)。したがって、同法所定の「遺族」が存在しない場合には、そもそも受給権自体が発生しないと解するのが相当である。この点につき、原告は、退職手当法の趣旨は、「遺族」が存在する場合にその生活を保障し、退職手当の支給の便宜を図る点にあるとし、「遺族」が存在しない場合には、そうした要請はないから、一般相続法上の原則にかえり、退職手当受給権は、本人の権利として相続財産に含まれることになると主張するが、既に判示したとおり、退職手当法は、単に死亡による退職手当の支給対象を定めたに過ぎないものではなく、退職手当受給権の発生自体についての根拠を定めた法規であって、死亡した退職者に「遺族」がない場合には同法による死亡退職手当受給権自体が発生しないというべきであるから、右受給権が本人の権利として相続財産に属するとの原告の主張はその前提を欠き、失当というべきである。