全 情 報

ID番号 03222
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 日本シェーリング事件
争点
事案概要  稼動率八〇パーセント以下の者を賃金引上げ対象から除外する旨の賃金協定の適用にあたり、右稼動率計算に年次有給休暇、育児時間、生理休暇、労働災害による休業・通院による不就労を含めることは、労基法に定める権利行使を理由にした不利益取扱に当り、権利行使を抑制する機能をもっており、労基法三九条、六五条、六六条、六七条、七五条ないし七七条、一九条の趣旨に反し、民法九〇条に反し無効とされた事例。
 右につき、団体交渉による不就労時間を稼動率計算に含めることは、ストライキ、団体交渉を抑制する機能をもつので、憲法二八条の趣旨に反し、民法九〇条により無効とされた事例。
参照法条 労働基準法39条
労働基準法65条
労働基準法68条
労働基準法75条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 争議行為・組合活動と賃金請求権
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 欠勤による不就労
年休(民事) / 年休取得と不利益取扱い
女性労働者(民事) / 産前産後
女性労働者(民事) / 育児期間
女性労働者(民事) / 生理日の休暇(生理休暇)
裁判年月日 1981年3月30日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和52年 (ワ) 1168 
昭和53年 (ワ) 7122 
昭和55年 (ワ) 2050 
裁判結果 一部認容
出典 タイムズ437号77頁/労経速報1080号3頁/労働判例361号18頁
審級関係 控訴審/01448/大阪高/昭58. 8.31/昭和56年(ネ)719号
評釈論文 岸井貞男・昭和56年度重要判例解説〔ジュリスト768号〕220頁/山下幸司・労働判例375号5頁/山口浩一郎・労働経済判例速報1118号20頁/秋田成就・ジュリスト780号148頁/小野幸治・労働経済旬報1226号26頁/中嶋士元也・中央労働時報684号13頁/本多淳亮・労働判例362号4頁/野沢浩・季刊労働法121号118頁
判決理由 〔年休-年休取得と不利益取扱い〕
 労働者が年次有給休暇をとったことを理由に、賃金引上げその他において不利益な取扱いをすることは、労基法三九条一、二項に違反し、許されないものというべきである。
〔女性労働者-生理日の休暇(生理休暇)〕
 生理休暇中の賃金の支払に関しては、労働契約や就業規則によって任意に定めることができるから、女子労働者の全部について、一律に生理休暇中の賃金を支払わない旨定めることも違法ではないのであるが、この取扱いは、有償双務の雇傭契約の特質上、生理休暇により労働をしないことに対する当然の結果であり、何ら法律上の不利益な取扱いではないというべきであるし、また一方、生理休暇日に対しても賃金を支払うことは、単に使用者の恩恵的措置に過ぎないものというべきである。
 しかし、右賃金の外に、生理日に出勤した女子に超過勤務手当を支給するなど特別の手当を支給することは、生理休暇の取得を抑制することになりかねないから、労基法六七条に違反して許されないものと解すべきである。
〔女性労働者-産前産後〕
 産前産後の休暇中の賃金を支払うか否かは、生理休暇の場合と同様に、労働契約や就業規則で自由に定めることができるのであつて、産前産後の休暇中の賃金を支払わない旨定めることも、勿論適法ではあるが、これは、双務有償である雇傭契約の性質上労働をしないことに対する当然の結果で、何ら不利益な取扱いではないというべきである。
〔女性(労働者)-育児期間〕
 女子労働者が右育児時間をとることも法律上定められた権利であるから、使用者は、女子労働者が右育児時間をとつたことを理由に賃金引上げその他において不利益な取扱いをしてはならないものというべきである。なお、育児時間中の賃金については、月給もしくは日給の場合には、原則として差引くことは許されず、ただ時間給の場合にのみ、労働契約等でこれを差引くことができるものと解すべきである。
〔賃金-賃金請求権の発生-欠勤による不就労〕
 前記休業補償のスライド制を認めた労基法七六条二項の趣旨に照らして考えれば、労働災害の経済事情の変動等のため、同一事業場における同種の労働者の賃金が上昇した場合には、使用者は、労働災害により休業していた労働者がその後就労するに至つた際の賃金も、当然に右上昇割合に応じて上昇させるべき法律上ないし条理上の義務があるものとすべきであつて、右労働災害による休業や通院による不就労を理由として、賃金引上げを拒否することは、右労基法の各規定の趣旨に照らして許されないものというべきである。
〔賃金-賃金請求権の発生-争議行為・組合活動と賃金請求権〕
 ストライキや団体交渉と不就労とは表裏一体の関係にあり、ストライキや団体交渉には必然的に不就労を伴うので、ストライキや団体交渉中の不就労を理由とした不利益な取扱いはとりもなおさずストライキや団体交渉そのものを理由とした不利益な取扱いに外ならないからである。
〔賃金-賃金請求権の発生〕
 従つて、本件八〇パーセント条項は、強行法規である前記労基法三九条、六七条、六五条、六六条、七五条、七六条、七七条、一九条、憲法二八条、労組法七条等の各規定ないしはその規定の趣旨に違反し、ひいては民法九〇条の公序良俗に反するものというべきであるから、当然無効というべきである。