ID番号 | : | 03231 |
事件名 | : | 配置転換の効力停止仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | エッソ・スタンダード石油事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 配転命令を受けた従業員(分会連合会の書記長)が会社を相手どって出勤停止処分無効確認等の請求訴訟を起して争っている場合にその訴訟の遂行を確保するため赴任の猶予の措置が使用者の信義則上の義務として問題となった事例。 |
参照法条 | : | 民法1条2項 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 信義則上の義務・忠実義務 |
裁判年月日 | : | 1981年9月18日 |
裁判所名 | : | 名古屋地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和55年 (ヨ) 1328 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部却下 |
出典 | : | 時報1041号120頁/労経速報1127号3頁/労働判例395号51頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 奥山明良・ジュリスト805号235頁/松岡浩・季刊労働法126号118頁 |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-信義則上の義務・忠実義務〕 前認定の如く、本件配置転換は会社業務の必要性に基づく正当なものであり、不当労働行為とは認められないが、申請人が被申請人を被告として提起している出勤停止処分無効確認等請求訴訟については、被申請人は特別の配慮を要するものと解される。即ち申請人は他の二名の組合員と共に昭和五五年二月一五日出勤停止(申請人につき五日)の懲戒処分を受け、他の二名及び分会連、分会らが原告となって同年七月三〇日名古屋地方裁判所に訴を提起したものであるが、右は前認定のとおり団体交渉のあり方をめぐって、分会と被申請人名古屋支店間で紛争が生じ、団体交渉の再開を求める分会はストライキを繰返したこと、その後団体交渉が開催されて争議は解決したが、被申請人は右争議中、申請人ほか二名に懲戒処分に相当する行為があったとして前記出勤停止処分をし、そのため分会はその処分の撤回を求めてストライキを繰返している状況にあることを考えると、昭和五五年七月当時は分会と被申請人名古屋支店間の紛争は膠着化し解決の目処は立っていない状況にあったというべく、かかる状況下で申請人ほかが裁判所に対し前記出勤停止処分無効確認等請求訴訟を提起し、訴訟手続を通じて紛争を解決しようとしたことは、基本的に評価、尊重しなければならない。従ってこのように紛争当事者の一方が、紛争解決の手段として訴訟に訴えたことを尊重すべきものとする以上、他の一方の当事者としてもその訴訟の遂行、完結に協力する信義則上の義務があるというべきであり、訴訟進行を阻害する結果となる行為は可能な限り差控えるのが相当である。 すると本件申請人に対する配置転換は実質的要件を具備した有効なものではあるが、直ちに赴任を命ずるとすれば、右訴訟進行に関する他の原告又は原告ら代理人との打合せ等が十分に行われず、攻撃防禦に万全を期することが困難となる。そして一旦赴任すると大分市と名古屋市との距離関係を考慮すれば連絡を密にすることもできず、結局において訴訟の進行を阻害する虞れなしとしない。従って配置転換と訴訟進行の両要請を調和の観点に立って判断すると、被申請人は本件配置転換命令を有効としてその効力を維持しつつ、申請人の訴訟遂行にも配慮し、そのための打合せ期間を与える趣旨において、赴任義務を一定期間猶予し、右期間経過後に赴任させることとし、もって訴訟進行に関する被申請人として許される協力義務をまず履行し、そのうえで本件配置転換を最終的に完結すべきものとするのが相当である。 そして前記訴訟が訴提起後弁論期日を重ね通常の速さで進行していることは当裁判所に顕著であり、その後現在まで約一年を経過したことを考えると、今後猶予すべき期間は本決定送達後一年間とするのが相当である。 結局本件配置転換は、有効ではあるが、被申請人に今後一年間赴任を猶予すべき信義則上の義務が付加されているというべきである。 右以上に本件配置転換が権利濫用であると認めるに足る事情は見当らない。 |